少しずつ書きためている動物園についての雑感。独断と偏見に満ちており、この手の話が嫌いな人は素通りしていただきたい。
No.1飼育と展示の矛盾
No.2行動展示の危うさ
No.3エンリッチメントは草の根で伸ばし、マネジメントが止める
No.4あるホッキョクグマの死
No.5横浜市にはなぜ3つも動物園があるのか
No.6「旭山をめざせ」- 行動展示は集客マシンか?

コラム「動物園」6: 「旭山をめざせ」- 行動展示は集客マシンか?

地方の小規模動物園は、年間入場者数ランキングに象徴されるレジャー産業としての位置づけ、地域経済活性化のための観光政策としての位置づけ、何よりも入場者ランキングに一喜一憂する動物園マネジメントとスポンサーやマスコミと、自然保護、動物愛護、教育の場としてのあり方との間で、苦悩している。

折りしも、国内の多くの動物園が施設老朽化の時期を迎えていて、リニューアル計画のお手本として、旭山を参考とするのが増えている。廃園を選択するところなど皆無だ。既にオープンしたところでは日本平、工事中の平川、計画策定中の徳山、構想中の姫路など、いずれも旭山を意識した内容だ。

きっと「旭山のような展示にすれば集客アップ間違いなし」のような提案が、全国の市役所や市議会で会話されているのだろう。見かけだけの行動展示は、動物にとってもっとも危険なものにもかかわらず。

富山、到津のような「地域の自然環境を知り、愛しむ」という地方の小動物園ならではのやり方はなぜ着目されないのか。やはり動物園をレジャー産業として捉えているからではないだろうか。

2010年12月

コラム「動物園」5: 横浜市にはなぜ3つも動物園があるのか

ズーラシアは1990年にオープンしたランドスケープイマージョン型の動物園である。素晴しい動物園なのだが、何か物足りない、というかさびしい。そう思って、運営母体である横浜緑の会のホームページなどで、経緯と考え方を探ってみた。

それによると、ズーラシアオープンと共に、金沢動物園、野毛山動物園を廃園または縮小し、機能をズーラシアに集中させる予定だったそうだ。ところが、その後なんらかの理由で2園の地元住民の存続請願運動が盛り上がり、現在2園ともほぼそのままの形で存続している。

3園は事実上の市営であり、市長、市議会、地域住民の利害が絡み合う。いくら全国区のレベルの高い動物園をめざすと言っても、地域の利益や利便性が損なわれれば、利害調整は難しい。あるいは、ズーラシアのオープン初年度に訪問者が殺到したことで、それまでの2園の持っていた「地元のため」の動物園から「混んでて行きづらい」動物園だと映ったのかも知れない。

一方、金沢も野毛山も施設の老朽化が進んでいて、動物達にとっても快適な環境ではなくなってきている。両園の、長年培った飼育ノウハウは素晴しいものがある。こうしたノウハウを、ズーラシアの素晴しいハードと融合できないのは、最も効率の悪い投資と言わざるを得ない。

かわいそうなのは、そんな中途半端な運営となっている動物園にいる動物達だ。

2010年11月

コラム「動物園」4: あるホッキョクグマの死

2010年2月にレオマワールドで老齢のホッキョクグマが死んだニュースをきっかけに、飼育と展示に対する責任の問題に気づいた。老齢で死ぬのは自然の摂理である。しかし、死に至るプロセスと死の公表に対する考え方は、国や動物園の間でも異なり、どちらかと言えば日本は問題を先送り、隠す傾向にある。

例えば、アメリカなら、病状を公開し、考えられうる手立て(アメリカでは、別の動物園から獣医が応援に駆けつけるなどのネットワークがしっかりしている)を尽くした上で、これ以上個体を苦しめないために安楽死の道を選ぶ、などの宣言をするだろう。

この問題は、更に、経営の移行にあたって、動物園と動物が排除されたことにある。新しいレオマの経営陣は、動物園と動物の授受を拒否し、旧経営は水面下で、動物の引き取り手を探したが、老齢で癌を患っているホッキョクグマを受け取ってくれるところなど、どこもない。過去にも、宝塚、別府、池田、など、同様の問題は繰り返されてきた。日本にはこうした場合のボトムラインがないため、結局のところ、非公表、問題先送りの道を選択せざるを得なかったのかも知れない。

この問題を契機に、日本中の動物園・水族館にいるホッキョクグマを全部見て回ろうと思った。回っている途中にも阿蘇で1頭死んだ。訪問した1週間前に死んでいた。展示舎自体が通行止めになっていて、展示中止になっているとの情報があり、気になったので行ってみたが、園内には何も掲示されていなかった。たまたま訪問した日に、地元テレビ局の取材が入っており、その撮影が目の前で行わたので、はじめて死亡の事実が確認できた。

この施設も飼育環境がひどく、推定31歳まで生きれたことが奇跡とも言われたが、そもそも飼育環境が劣悪な中での死は、天寿をまっとうしたといえるだろうか。

2010年10月

コラム「動物園」3:エンリッチメントは草の根で伸ばし、マネジメントが止める

アメリカ人は、コンセプト好きなので「エンリッチメント」と大層な名前をつけたが、結局のところ幸せそうな動物の姿が見れるのは飼育員の動物に対する愛情と熱意と創意工夫次第だと思う。そんな飼育員の方と話をするのはとても楽しい。

熊本市動植物園のホッキョクグマ「ミッキー」を担当されている方は、とにかくミッキーが好きでしかたないという感じだった。来園して以来、ずっとミッキーに(熊本弁で)話しかけ、どんなおもちゃをあげようか考え、えさのあげ方もどうしようかと創意工夫を凝らしている。

この方のブログはこちら

ところが、おもちゃひとつあげるにしても「もし、それを観客に投げて怪我でもされたらどうする」とか言われて、なかなか許可をもらえないらしい。

確かに、人に石を投げたチンパンジー、ブーマーボールを投げたホッキョクグマ、少年を襲って安楽死させられたワオキツネ、など、問題になったケースがない訳ではない。

が、マネジメントも、先に「人間が怪我をしない」ではなく「動物が楽しんでくれる」を考えられないものか?。人間の安全対策は、後からでもできるはずだ。

2010年10月

コラム「動物園」2: 行動展示の危うさ

ホッキョクグマのもぐもぐタイムも人気アトラクションの1つだが、旭山のホッキョクグマは3頭居るにもかかわらず、もぐもぐタイムは、いつもイワンが担当だ。

同じ放飼場に居るメスのサツキは、昼間は外に出してもらえない。というのも、サツキは泳ぐのが好きでない上にえさをキャッチするのも上手くないため、もぐもぐタイムのショーが成立しなかったかららしい。

これはさすがにサツキのファンが怒った。「なぜ、サツキを展示しないのか?。こんなことなら4園共同宣言を撤回して(サツキを)円山に返せ」と札幌対旭川の戦いになってしまった。

苦肉の策で、午後のもぐもぐタイムが終わったあと、サツキは放飼場に出てくるようになったが、この話は展示のコンセプトにあわない個体は排除される可能性がある、という行動展示の危うさが露呈した事件だと思う。

2010年9月

コラム「動物園」1: 飼育と展示の矛盾

旭山動物園は、日本国内だけでなく、韓国や中国、台湾でも有名だ。あまりにも有名になり過ぎたため、観光客が殺到し、これによる新たな悩みも発生しているという。

たとえば有名な空飛ぶペンギンだが、ペンギンは7−8月頃が繁殖期である。繁殖期のペンギンは、陸上でじっとしていることが多く、この時期ペンギンプールを泳ぐ姿は、なかなか見ることができない。一方旭山に来るツアーは、夏場は富良野、大雪山との組み合わせが人気で、訪問者が最も多い。

遠方から来たツアー客は、「行けば絶対見れる」と信じている。おまけに、旭山以外にも、大雪山、富良野など周辺の観光地を駆け足で回るため、動物園に居る時間も短い。「あと少し」「また今度」のない客である。

時々ツアー客から「空飛ぶペンギンが見れると聞いたのではるばる遠方からやってきた。それなのに、まったく泳いでいない。これは詐欺だ。ついては、今すぐペンギンをプールに放り込んででも、空飛ぶペンギンを見せるべきだ。」と、抗議されることもあるらしい。

旭山動物園の行動展示は、こんなに活き活きした楽しい姿を見せてくれてありがとう、という動物達への感謝の気持ちから始まっている。行動展示が、単なるアトラクションだと捉えられてしまうと、一歩間違えれば動物虐待になりかねない危うさがある。動物園側は分かっているのだが、観光客ははたして・・・

2009年7月