人は、誰だって、知られたくない部分を持っていて、それを隠そうと、必死になってる。
必死になってる姿を見られるのはみっともないけど、もしそれを見てしまったら、見て見ぬ振りをしてあげるのが、人として誉められる事。
でももし、本当は、それを暴いてほしいんだとしたら、どうしたらいい?
この家で暮らしはじめて、1年が経つ。
もしかしたら、早々に破綻するんじゃないかと思っていたけど、意外に上手くやっていると思う。
嘗ての教え子達が、時々、必ず揃って訪れる。
何故だか、一人ずつでやってくる事はなくて、それが少し不思議だけれど、彼等の関係がわかるような気がして、俺は少し嬉しい。
チームになったなって、思うから。
あの人は相変わらずで、歩み寄りを図ろうとするくせに、自分を曝け出そうとはしない。
俺の事を知りたがって、それで俺に近付こうとしているのは、ずっと前からと同じ。
自分の事を知られるのが嫌なのに、俺の事は知りたがる。
なのに、絶対に踏み込んでこない場所がある。
俺の身内の事。
両親とか、世話になった人の事とか、諸々の、俺を形成してきた人達の事。
今の俺を理解するには、それを避けて通る事はできないはずなのに、そこには触れない。
俺が自分から話をするのを待っている。
それはきっと、彼が自分のそれに触れてほしくないからだ。
明け透けに話す事も多いのに、絶対に言わない事がある人だから、そんなのすぐにわかる。
あの人には、絶対に壊せない、殻がある。
この家に住むと言い出してから、1年半になる。
あの人と暮らしはじめて、1年。
そう、俺は、この家に住む事を、半年もの間、ずっと申請し続けてやっと、許されたのだ。
条件の一つ、あの人を住まわせる為に。
あの人は、この里の中で、たった一人になってしまった、特殊な役目を持つ人。
ある意味、血継限界なんかよりもずっと、珍しい人。
里の中の様々な場所に、あの人の目が光っていて、あの人を押さえられたら、里に何が起こるかわからないという人。
それは、単に、あの人の能力が特殊だってだけでなく、あの人の存在が、特殊な人間の中に深く関わってしまっているせいでもある。
その一人が、俺だ。
腐っても上忍。と言われる上忍連中の中で、要注意人物としてあげられている写輪眼のカカシ。
それを、意のままに扱える人なんて、あの人だけだ。
もう一人は、里の脅威のお子様。狐憑きのうずまきナルト。
以前程べったりではないけれど、それでもあの子にとって、あの人は特別。最初の一人だからね。
そういう人が、一応、危険な家であるここに暮らしていいものか。
との懸念があったそうだが、正直言って、昔住んでいた家に帰ってくるだけなのに、今更何を言うか、って思わなくもない。
まぁ、それだけ、大事にされてるのさ。3代目火影の目にかなった人だからね。
子供の頃は、驚異的な力を誇る両親がいたから安全だったんだと、彼等は言う。
ならば、俺がいればいいだろう。と言ったら、毎日いるわけじゃないと言われてしまった。
だったら、昔のように、保護者を派遣すればいいと言った。
あの人が子供の頃にこの家に通っていた人々は、運良く存命中で、しかも、かなりの腕を誇る。
それにあの人は、もう子供じゃない。
何かあったら困るような役目を任されている程には使える人だって事も、忘れちゃならない。
あの人は、自分の命が何より大事な人ではないけど、自分の持ってる役目がどういうものか、はっきりと自覚して理解している人だから、何があっても、それを放棄するような人じゃない。
もし万が一、あの人が里から連れ出される事になったとしても、あの人の力はそれで途切れるものではないし、もし、その命が奪われるにしても、多分、何らかの仕掛けが動くに違いない。
あの人が目指す『忍』は、そういうものだから。
役目を果たす事だけを目的にして生きているあの人は、それでも、役目から離れると、ぼんやりした人になってしまう、不思議な人。
だから、彼等は不安になるのだろうけど、そんなのは、無意味だ。
俺は、あんなに強い人を知らないし、あんなに弱い人を知らない。
傷だらけで、必死に立ってるあの人は、とてもとても強くて、俺の手など必要としない。
あの人は弱いから、傷だらけになった自分を晒すのが嫌だから、だから、誰の手も取らない。
あの人の傍に行きたいと思う。
あの人に触れたいと思う。
でも、あの人には、それを拒む殻があるのを、俺は知ってる。
あなたに触れているはずなのに、どうしてだろう、本当は触れていないような、不安に駆られる。
連作パターンのカカシさんとイルカさん。
最初、24でいこうと思ってたんですが、これは、カカイルだなぁと思ったので変えました。
お互いに、相手に殻を感じているのは、本当は、自分が殻にこもってるかもしれないよ。って感じです。(2003.5.23)
「文字書きさんに100のお題」の作品です。