新婚旅行といえば、熱海でしょ?
と、いつの時代の人間かと、首を傾げずにはいられない事を言ったのは、女好きで知られる友人だった。
旅行に行こうと誘われて、そんな息抜きもいいかと思って頷いて行き先を訪ねると、彼は笑って、
「熱海。温泉行こう。」
と、言った。
温泉なら箱根だろうと言い返したら、ちょっと膨れっ面になって、口を尖らせながら言ったのだ。
「新婚旅行と言えば、熱海でしょ?」
新婚旅行の行き先が、熱海だったのなんて、俺の母親のその親くらいの時代じゃないのかと、ちょっと赤くなっているその顔を見て思った。
なのにどうしてだか、なんでその旅行が新婚旅行になるんだなんて言葉は、出てこなかったのだ。
「ねぇ、行こう?」
伺うように問い掛けられて、答えに詰まる。
確かに昨日、指輪をやった。一月前に、チタンのリング型のピアスを貰ったから、同じメーカーの同じシリーズの指輪をやった。
でも、そんな意味なんて、考えてなかった。プレゼントを貰ったから、何かあげたかっただけだ。
「一日ずっと、二人でゆっくりしようよ。」
絶対無理だ。
ゆっくりなんてできっこない。
凄く自信がある。
二人でいて、ゆっくりのんびりできたためしがない。2時間がいいところだ。
俺達はいつもせわしなくて、目が合って、のんびりしていられたためしなんてない。
なのに、こうして誘われて、俺がそれを断れたためしだってないのだ。
「部屋に露天風呂がある宿じゃないなら行かねぇ。」
だってきっと、こいつは馬鹿みたいにはしゃぐに違いないのだから。
パラレル、サンゾロ。名前なんて欠片も出てこないので、「海城」とか言っても騙されてくれる人いるかもしれないけど、どう考えたってサンゾロ。
熱海、行きたいな、と、東京に行く度に思う。(2003.12.16)
「文字書きさんに100のお題」の作品です。