欠伸を堪え切れずにちらりと隣に目をやると、同じように眠そうな顔で欠伸をしている姿に気がついた。
「あ…」
二人で顔を見合わせて、クスリと笑う。
「知ってます? 欠伸って、伝染するんですって。」
「は?」
何を言い出したかと首を傾げると、彼は楽しそうに笑った。
「欠伸をすると、大きく息を吸って吐くでしょう?」
「ええ……まぁ、そんな感じですね。」
言われた事を考えると、それはその通りだが、それがどうして伝染するのか、と答えは見付からなかった。
「そうすると、酸素が減って、二酸化炭素が増えるでしょう?」
「ええ…」
「欠伸が出るのは、血液内の酸素濃度が減るからなんですって。」
「……はぁ。」
一体どこから出た知識なんだろうと、眉を顰めつつその話の先を待つと、彼はへらりと笑う。
「だからね、隣の人が二酸化炭素を増やすから、欠伸は隣へ染るんですって。」
「………そうなんですか?」
確かに、密室で気をつけるべき事は、酸素濃度が減る事よりも、二酸化炭素が増える事なのだ。血液内の二酸化炭素濃度が増えると、意識不明から死に至る事もある程だ。
狭い場所にいて、息苦しく感じる事があるとしたら、それは酸欠ではなく、二酸化炭素濃度が増えたせいだという。だから、長時間密室から出られない状況になる時は、二酸化炭素を吸着する物を持って行くのが鉄則だ。
しかし、隣の人間の呼気を直接吸い込み続けたのでない限り、そんな事があるのだろうかと、イルカは首を傾げた。
「その他にも、隣で欠伸して眠たそうな人のいる、陽当たりのいい縁側なんて、伝染して当然ですよね?」
まさに今がその状況で、二人で揃って欠伸をして、早く待ち人達が来ないかと思っていたところだ。
「一緒に作るって言ってたのに、すっかり出来上がっちゃって…」
おはぎが食べたいと言い出したのはカカシで、イルカが作れると言うので、カカシはそれをちょっと自慢した。うちのお嫁さんはこんな事もできるんだぞ。って気分で。そうしたら、教え子達も食べたいと言い出し、一人は自分も作り方を覚えるのだと息巻いた。
それなのに、手際のいいイルカは、あっさり目当ての品を作り上げてしまった上に、お彼岸団子まで作り上げてしまった。勿論、手伝いをしたカカシの腕に寄るところも大きかったが、後はそれを消費してくれるものが来るまでぼんやり待つしかない。
「そういえば、おはぎって、春の頃には、ぼたもちって言うらしいですね。」
「そうなんですか?」
「萩は秋の物だから、春の牡丹にかけてそう呼ぶとか聞きましたが。」
イルカの披露してくれた知識は、今さっき自分が教えた知識への返礼かと、カカシは部屋の中のおはぎの山に目をやる。
「先に少し食べちゃいません?」
「………そうですね……」
ぼんやりしていても仕方がないし、と立ち上がって大きく伸びをして、隣で同じ事をしている姿に思わず吹き出す。
「すっかり鈍っちゃって…」
「自分の事棚上げしちゃ駄目ですよ。」
笑って返され、ため息まじりに部屋の中へ足を向けると、遠くから声が聞こえてきた。
「ああ、来ましたよ。賑やかなのが。」
「これも、タイミングがいいって言うんでしょうかねぇ…」
お茶を用意してきます。と奥へ入って行く背中を見送って、庭の木戸から入ってくる子供達を迎える為に、もう一度縁側へ腰を下ろす。
「すっかり、呑気さがうつっちゃって…」
でも、これも楽しいから仕方がない。一人でぴりぴりしているのはもう、やめにしたのだから。
やってろよ!と、思われるような呑気な縁側シリーズです。
原作登場もめっきり減ってしまった方々。うっかりシカマルに心を奪われそうよ。と思う日々です。サスケの動向も予測がつかず、ここに名前を出していいものやらどうやら。やはり、話が進まないうちに好き勝手書くのが一番楽なのだなぁ。
二酸化炭素濃度の話は嘘ではございませんし、深海潜水艇には二酸化炭素吸収剤が設置されております。狭い所に何時間もいなくちゃいけないからね。布団の中で息苦しくなるのは、そういう事なんだと、本に書いてありました。(2004.3.16)
「文字書きさんに100のお題」の作品です。