その煙を見て、ふと、奴はどうしているだろうかと思った。
戦闘中だということも構わず、銜えられたままの煙草の煙は、朝方別れた仲間の一人を思い出させるには充分で、これまですっかり頭の中から追い出していた人間の事が、ふいに気になった。
もちろん、気になったと言っても、心配になったわけじゃない。そんなものが必要な相手だと思っていたら、あの組分けを認めない。
ただ、何をしているだろうか、と思っただけだ。
普段は女に弱くてへらへらしている時もあるが、戦うとなれば弱くはないし、筋は通ってる奴だ。
無駄に誰かを攻撃しようって奴じゃないし、誰かを守るって時に、力を発揮する奴だと思う。
今回の事にしたって、奴の役所は、守る事だ。まさに、適役ってやつだろう。
だから、心配なんて、これっぽちも、浮かんでこねぇ。
奴の事は、信用してる。何があっても、奴はきっと、自分に任された事はしてのけるはずだ。
守りを任せた奴と違って、俺は、斬り込む方は負けねぇ自信があるが、誰かを守って戦えるかと言われると、大きく請け負う事は出来そうにない。
こっちが戦ってる間に逃げるだけの技のある奴なら、庇えなくもないが、普通、そういうのを守るとは言わないんだろう。
大体、俺は、俺の為に戦ってる。誰かを背後に庇って戦う事は、俺の戦いの中に想定されてない。
強くなりたいのも、俺の為。生きてる目標自体が、自分本意なんだから、それにくっついてる戦い方が、誰かを守る為のものになるわけもない。
だから時々、奴を見て、ああいう道もあるんだな、と思う事はある。今から真似する事なんてできるわけもないし、その気もないが、自分が走ってきた道だけが道じゃないと、教えられたような気はする。
そういう事を考えると、ロビンなんかは、俺に近いんだろう。
自分の目標の為に、自分を第一に考えて道を進んできた奴だ。多分、あいつだって、俺の事を自分と同類だと思ってるに違いない。
最初は警戒もしていたが、その辺の事が掴めると、あまり気にもならなくなった。
あいつはきっと、自分の目標を達成すればこの船を降りるだろうし、降りないのならば、何か別のものを握り込んだって事だろう。
俺の目標は世界最強だが、この船に乗った以上、ルフィが海賊王になる迄は、船を降りる事はないのと同じ事だ。
それぞれ事情があってあの船に乗っているのならば、それぞれの事情を持って船を降りればいい。
あいつがこの船に乗ってから、そういうのもありなんだろうな、と思った。
新しい誰かが船に乗る度に、別のものの見方に気付く。一人でいた頃には、なかった事だ。
周りの空気が、チリチリと緊張感を孕んでいるのが、伝わってくる。
ぼんやり、こんな事を考えてる間はねぇらしい。
俺が奴の事なんか考えていようがいなかろうが、これに片が付けば、奴はいつものように煙草をふかしながら現れて、嫌味の一つも言うに違いない。
「…オイ、黄金よこせ。」
それじゃぁ、俺は俺の仕事をきっちり抑えておかなけりゃならねぇ。
馬鹿にされっぱなしじゃ、俺の腹がおさまらねぇからな。
ワンピ、第2作。今更ながら、神の社目前の場面。
ワイパーって、ずーっと、煙草ふかしてるからさ、その辺はサンジと被るよなぁ…って、思ってたのですよね。
絶対、ゾロはサンジの事思い出すと思うわ。でも、ああ、なにしてるかな、って思ってお終いだと思うけど。(2003.9.4)
「文字書きさんに100のお題」の作品です。