「サンジ、そんなに大きなお弁当箱は持って行けないと思うんだけど…」
学校から帰って来たゾロは、キッチンのテーブルに置かれた大きな重箱を見て、そう訴えた。
「え?」
サンジはその言葉を聞いて、じっとゾロを見返す。
「だって、せっかくの遠足なのに。」
「明日の遠足は山に登るから、そんなの持って行ったら、重くて大変だよ。」
リュックにだって入らないと思う。とゾロが言えば、サンジは小さく声を上げてその場に崩れ落ちた。
「サンジ?」
何事かと慌てて駆け寄れば、サンジは悲嘆に暮れた声で叫びをあげる。
「せっかくの初お弁当だったのに!」
ずっと前から、一生懸命考えたんだよ。と言ったサンジの足元に、何やらびっしり書き込みのされた紙が一枚落ちているのをゾロは見つけた。
手に取って見てみれば、それは色鉛筆まで使って描かれた弁当の設計図らしく、どうしてここまで張り切るのか…とゾロが不思議になる程の力の入れ具合がありありと伝わって来た。
「………サンジ…」
だけれど、3段の重箱なんて、遠足に持っていける量ではない。持って行けたとして、それを一人で食べ切るのなんて更に無理だとゾロは思う。
「サンジ、明日の遠足は無理だけど、来月は運動会があるんだ。」
「運動会のメニューは別に決めてるんだよ。」
ゾロには一番美味しいものを食べさせてあげたいんだ。と、サンジは言い、ゾロは少し恥ずかしいと思いつつも、その言葉は嬉しかった。
今まで、こうして誰かが自分の為だけを思って料理をしてくれるなんて事は殆どなかった。そして、それをここまではっきりと表現される事など、一度もなかったのだ。
サンジはどこかおかしいと思わずにはいられないけれど、それでも、やっぱりとても大切だと思った。
「じゃぁ、これ作って。」
そうゾロが言うと、項垂れていたサンジは顔をあげてゾロを見やる。
「遠足には持って行けないけど、帰って来てから、二人で食べよう。」
美味しそうだもん。と設計図を見ながらゾロが言えば、サンジは見る間に表情を緩め、向いに座っているゾロを抱き締める。
「今から、急いで新しいお弁当を考えるから!」
お弁当箱も買いに行かなくちゃ。とサンジは慌てふためき、がばりと立ち上がる。
「楽しみにしててね。」
おやつもすぐ用意するよ。とサンジは冷蔵庫を開ける。
「荷物置いておいで。」
「うん。」
ゾロは大きく頷いて自室へ駆けて行き、サンジは小さくため息をついた。
遠足のお知らせを貰って来た日、ゾロは心配そうに、お弁当を作ってくれるかと聞いて来た。
持ってくるなと言われても、持たせる気満々だったサンジは、その問い掛けの意味を計りかねて、ゾロの表情を伺った。
「俺、弁当持って行った事ないんだ。」
ゾロの母親は、子供に構わない人であったから、ゾロの為に弁当を作るなんて、きっとなかったのだろうとサンジはそれを聞いてやっと気付いた。そして、それを言わせてしまった事に、情けなくなった。
「俺も、誰かにお弁当を作るの初めてなんだよ。」
そう言うと、ゾロはパッと笑みを浮かべて、期待に満ちた目でサンジを見上げる。
「頑張って作るからね。」
その弁当でゾロを喜ばせてみせると、サンジは決意したのだ。
彩りも、盛り付けも、メニューだって、サンジはそれから毎日考えた。
祖父はその様子を見て可笑しそうな顔をしていたが、サンジは真剣だった。母にも意見を聞いてみたり、夕食に似たものを用意してゾロの反応を見る事までした。
昨日、構想が出来上がった時には、完璧だと思ったのだが、ゾロに言われるまで、その大きさについては考えていなかったのは失敗だった。
「……運動会用も、ちょっと考え直さなくちゃダメか…」
お重が5段程度になる計算だったのだが、更に吟味が必要かと、サンジは小さくため息をついた。
歳の差義兄弟話再び。
先日、江藤さんとこんなだったら可笑しい。と話したネタから。
その時話していた弁当作る人はミホパパだった。
(2005.10.12)