夜のデザート



「あのさ、俺は、お前の事が好きなんだけど。」
 そう言ってみたら、ゾロはちょっとぽかんとしてた。
「………なんて?」
 暫くじっとしていた後、ゾロは言葉の意味を問いかけてきた。
「俺は、お前が好きです。って言ったんだよ。」
「それを、何故今言う?」
 時は真夜中、見張りの交替が終わって、ゾロはいつものようにキッチンへ飲み物を求めに来たところ。
 俺はそんなゾロに、いつものように、暖かい紅茶にブランデーを半分くらい入れてやって、ゾロはそれを嬉しそうに飲んでいたところだった。
「言い時かな、と思って。」
 言うぞ、言うぞ、と意気込んでいたわけではないけれど、紅茶を飲むゾロを見ていたら、言ってもいいかな、という気がした。
 ゾロは、その返事に納得がいかないのか、眉間に皺を寄せて何事かを考えていたけれど、ふぅ、と一息ついて、紅茶を飲み干した。
「俺も、お前が好きだけど?」
 言うまでもない事かと思ってた。とゾロが付け足すのを聞いて、俺は驚いてゾロの顔を見つめた。
「……好きって……?」
 俺は、そんな事はまるで気付かれていないと思っていたし、と言うか、ゾロがそういう感情を自分に認めているなんて思いもしなくて、ただただ驚いた。
「別に茶なんて飲まなくても眠れるけど、寝る前に、顔が見たいなぁと思う感じ。」
 それは俺が、眠る前に、先に眠っているゾロの寝顔を確認して安心するような、そういう気持ちと一緒だという事だろうか。
「………いつから?」
 問いかけると、ゾロはおかしそうに笑う。
「お前と同じくらいじゃねぇかな。」
「…………うそ……」
 俺は、自分の事をラブコックだとかなんとか言いながら、一番好きな人の気持ちすら読み取れていなくて、朴念仁だとばかり思っていたゾロは、さも当然の事のようにそれを感じていたなんて、正直信じられない。
「なんとなく、気配がわかるようになってきた頃だったしな。」
 それが、恋愛という心の機微がわかるから、ではない事が、ゾロらしいと言えばゾロらしいと思うが、そんなにわかってしまう程、自分はあからさまであったのかと、何となく気恥ずかしくもなる。
 そして、考えてみれば、ゾロがこうしてキッチンへやってきて、二人で話をするようになったのも、あの頃からだった気もする。
「俺、お前が嫌がるかと思って、隠そうとしてたんだけど。」
「だから、なんか違和感があったんだ。」
 最初から、好意があると感じていたわけではなくて、何かぎこちない様子が見て取れて、それで観察するようになったのだと、ゾロは言う。
「って事は、俺は口に出さないで、お前に告白してて、お前はそれを受け取って、俺に惚れてくれたって事?」
「……まぁ…そんなところか。」
 最初から好きだったわけではないな。とゾロは言い、苦笑を浮かべる。
「なんか…拍子抜けってか…」
 ゾロの隣へ移動して、横から抱き込んでも、ゾロは嫌がりはしなかった。
「どうやって振り向かせようとか考えてたのに。」
「筒抜けだったぞ。」
 ゾロは言い、目の縁にキスをしても、耳を噛んでも、くすぐったそうに笑うばかりだった。
 なんだかとても拍子抜け。
「じゃ、俺に、今夜のデザートを下さいな。」
 ゾロは途端に吹き出して、腹を抱えて笑いながら、どうぞ、と言って、右手を差し出した。

 
 
 


10本書いて、ゾロがサンジの事が大好きなものばかりが出来上がって、幾らか吃驚している状況。
でも、サンゾロって、ゾロの許しがないと、穏やかにやるのは無理だろうし、ゾロがサンジの事を大好きなのは大前提だよな。と思います。

(2006.6.27)




3万打記念企画TOPへ