だってもう、どうしようもないじゃないかと思ったのだ。
もしかして、自分はあの男に惚れているのかと疑問を抱いたのは、もう半年は前の事だ。
だから、好いていたのはもっと前からの事になるのだけれど、気付いてからは必死だった。
あんな男に惚れたところで、想い返してもらえる保証などどこにもない。
もしかしたら、惚れたのどうのという感情すら持ち合わせていないかもしれない相手だ。
そんなものに惚れても、自分に想われる時など来るわけがない。
けれど、日々を同じ船で過ごし、同じ部屋で寝起きして、同じ相手を見て戦い、同じ先を見て進む中で、一度気付いた想いを消し去るのは、到底できる事じゃぁなかった。
「お前な、そう、遠慮なくかぱかぱ飲むなよ。」
ため息混じりにそう言えば、ゾロは不服そうに口元を歪める。
「お前が飲んでいいって言ったんじゃねぇか。」
確かに、飲むならこれを、と瓶をテーブルに置いたのはサンジである。
けれど、1本空けていいなどとは言っていないし、口を着けて飲むなと態度で示して、グラスも用意してやったというのに、一瞬目を離せば、既に瓶の半分は空だ。
「お前ね、ナミさんが次の上陸が遅れるかもしれないって言ったの聞いてたか?」
上陸が遅れれば、食料や酒の補充も遅れる。最悪、足りなくなる事も覚悟しなくてはいけないという事なのだ。それなのに、ゾロはまるで気にしている風もない。
「だったら、最初ッから、全部飲むなって言えばいいじゃねぇか。」
ぷくりと頬を膨らませ、自分は悪くないと態度で示すその様子が、とても自分と同年の人間のする事とは思えない上に、剣を奮う彼の姿とはまるで違っていて、サンジは思わず噴出しそうになるのを必死に堪える。
諦めようと思うのに。ゾロはいつだってこうしてサンジの目を引き寄せて、ほんの少し前の決意を鈍らせる。
あんな剣術馬鹿に、人の心の機微なぞわかるものかと自分に言い聞かせて、諦めようと決めたのに、お前が言って聞かせれば聞かない事もないのだと、こちらに折れるような様子を見せたりするから、好きだと告げれば、考えてくれるかもしれないと思ってしまう。
「大体、お前だって別に飯の量減らしてもいないじゃねぇか。」
酒だけ控えろなんて横暴だ。と文句をつける様子が、可愛らしく見える自分はどうかしているといつも思うのだけれど、もう、どうしようもないじゃないか。
「じゃ、もうそれまで。」
そう言えば、ゾロはしぶしぶ瓶にコルクを差し直して、不服そうに足をぶらつかせる。
どうしようもないな、と思うのだ。
酒が好きで、剣しかなくて、自分の身など大事にしない男なのに。
遠く高い行く先しか見ていない男なのに。
可愛げのある奴だ、なんて思ってしまった時にもう気付かなくてはいけなかったのだ。
こういうのに惚れてしまったなら、一生諦める事なんてでないという事に。
あきらめましたよ どうあきらめた あきらめられぬと あきらめた
サンジはきっと、ゾロに惚れたのを必死に否定して、それでもやっぱり好きだと思って、そう思ってもやっぱり無理そうだから諦めようとして、でもどうしても諦められなくて、それで好きだと言うに違いないと思います。
そうしてゾロは、あっさり、「俺も」って答えるんだと思います。(2007.2.9)