あの人の どこがいいかと尋ねる人に どこが悪いと問い返す



「あんたの気が知れないわ。」
 思い出したように時折繰り返されるその話題に、ため息で返してゾロは手元のグラスを口へ運んだ。
 視線の先、乗船中の王女様の為に洗濯をするサンジの姿を、ナミはどこか忌々し気に見つめていた。
「あんなののどこがいいのよ。」
 そう言いながら、ナミがサンジを嫌っているわけではないのは、ゾロもよくわかっている。
 だからこれは、ちょっとした嫉妬だ。
 この船の様々な事を取り仕切る女王様は、新たに加わったお姫さまの登場で、その崇められる時間が減ったのが、時々気に入らなくなるらしい。
 特に、こんな風に陽射しが強い上に風も弱く、自分の体調が思わしくない時は。
「あんたがいるのに、他の女にちやほやして。」
 さっきまで自分に美辞麗句を捧げて、綺麗にカットしたフルーツの入った冷たい紅茶を運んできたサンジの事はすっかり無視してか、ナミはサンジとビビを半ば睨むようにして、ゾロを見る事なくそう呟く。
 ゾロにはこういう疑問が一番よくわからない。
 サンジとは、確かに相愛の関係だ。当然のように、抱き合って眠る事だってある。その事を船の皆に隠してもいない。宣言したわけではないから、皆、薄々と気付いているだろうという程度だが、それでも問われれば肯定する気でいる。そんな関係だ。
 けれど、サンジもゾロも男である。女ではない身の上で、サンジが女に優しくするのを嫉妬するなど、ゾロには全く考えられない事だ。
 もし、サンジが男相手に『美しい』だの『愛しい』だのと囁いて、自分にするよりも大切に扱うのを見たりすれば、ゾロとしても不愉快にはなるだろうし、もしかしたなら嫉妬なぞ感じて、悋気の一つも見せてみるかも知れないが、相手は女なのだ。どこに嫉妬をする必要があるかと思う。
「俺は女じゃねぇからよ。」
 他の女に、と言われてもピンとは来ない。
 自分以外の人間に。というのもどことなく違う気もする。
 サンジには、女は親切にして大切に愛しむものだという意識がある。
 そういうものをゾロは知っているから、今さっきだって、自分の横でサンジがナミを誉め讃えていたのも、自分に差し出された紅茶のグラスが何の飾り気のないグラスであるのも、少しも気になったりなんてしない。むしろ、そんな風に自分に対応されたりした方が、腹が立つだろうと思うのだ。
「そんな風にあんたが何も言わないから!」
 あいつがつけあがるのよ。とぶつぶつ文句を言うナミを眺めて、す、と立ち上がり、デッキチェアに座るナミを見下ろす。
「………何よ。」
 睨まれたと思ったのか、言い過ぎたと思ったのか、一瞬ナミが怯んだのを見て少し胸がすっとする。
「あれの何が悪いってんだ。」
 お前がサンジの何を知っていると言うんだ。
 あれはお前の男ではなく、俺の男だ。お前にしたり顔であれこれ言われる筋合いはない。
 そこまでは口に出さなかったが、ナミは息を詰めて顔を強張らせ、ゾロはにやりと笑って背を向けた。

 
 
 


あのひとの どこがいいかと たづねるひとに どこがわるいと といかえす
相手に愛があるので、ちょっとした事で怒る事はないけれど、その相手と自分を馬鹿にされて、黙って笑っている人ではありません。
サンジだったら、惚気を言って相手を飽きれさせていることでしょう。
ゾロにも惚気させるつもりだったんだけどなぁ…

(2007.2.6)




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