「ゾロ、夕飯何食べたい?」
問い掛けられて、どうしようかとゾロはじっと考え込む。
サンジがこう問いかけてきたら、どんな無理を言ってもそれが適えてもらえる事を、ゾロは経験で知っている。けれど、だからと言って無茶を言ってはいけないのは当然の事。
ここは航海の最中の船の上。追加で手に入れる事のできる食料は魚介類のみ。それとて本当に手に入るかは定かではない物だ。
昨日覗いた冷蔵庫には何が入っていたろうかと思い起こし、倉庫の中身を思い出す。
「マカロニのグラタン。」
冷蔵庫には牛乳が入っていた。港を出てから1週間。そろそろ使い切ってしまわなくてはいけない頃のはずだ。倉庫にはチーズもあったし、マカロニは買っているのを見たからあるはずだ。
「ベーコンとじゃがいもの入ってるのがいい。」
サンジのグラタンは、大きめの鍋一つでまとめて全員分を作るやり方だ。
表面のカリッとした焼き上がりと、溶けたチーズとたっぷりのホワイトソースが具によく絡んで、とても美味しい。
「了解。」
にこりと笑うサンジは、勢いをつけて立ち上がり、倉庫へと足を向ける。
今回も上手くやれたとほっとして、鍛練をしようと船尾へ足を向ける。
サンジが自分の意見を聞いてくれるのは嬉しいけれど、あまり困らせたくはない。
それに、本当はサンジが作る物ならなんだっていいのだ。どれだって美味しいし、どれだって綺麗だ。
だけど、何だっていいなんて言って困らせたりもしたくない。
きっと、サンジはそんな事には気付いているのだろうけど。
テーブルに並んだ料理を見て、サンジを伺うと、楽しそうに笑う顔がそこにあった。
リクエスト通りのグラタンと、鯖の塩焼き。米の飯と味噌汁。
「なんか、変な取り合わせね。」
ナミが呆れたような顔でそう言って、ルフィが旨ければ何でもいいんだと笑う。
「どうぞ、召し上がれ。」
そう声が掛かれば、それを合図に一斉に料理に手が伸びる。
別に心にもない望みを言ったわけではないけれど、こうして自分の好きな物が並んでいたら、それはやはり嬉しい事で、なんだかくすぐったいような気分になった。
ぱちりと目が開いて、目に映る天井を見てそっと息を吐く。
自分から置いてきたその場所を、今でもこうして夢に見る。
その度に、どうしてあの手を掴んで来なかったのかと後悔する。
彼がいなければ、意味がないのに。
おうたゆめみて わろうてさめる あたりみまわし なみだぐむ
老人サンゾロのサンジ。ゾロを置いて出て行った後の話。
幸せな夢を見て泣くなんて事は、ゾロには多分ない。
けれど、空を見上げて泣くのなら、ゾロにだってあるかなと。(2007.2.13)