仕事を終えて、ぽつぽつと一人で家へ足を向ける。
別に、一人が寂しいわけじゃないけれど、ふいに自分はひとりだな、
と思う時がある。
疲れているんだろうかと、自分を分析してみたりして、苦笑を浮かべる。
だって少し考えれば、自分が一人じゃない事なんてすぐにわかる。
だからこれは、ちょっとした弱気。
いつもの帰り道を離れて人通りのまばらな道へ足を進め、苦笑を浮かべた。
家へ向かう道の先に、見なれた背中が幾つか見えた。会いたくなかったわけじゃなく、多分、どちらかと言えば会いたい人たちだったのだけれど、何故だかそこへ足を向ける事ができなかった。
そう思う程に、彼等はそれだけで完成されているように見えた。自分がそこへ行って、その中へ足を踏み入れるのは、それを壊してしまうことになると思ったのだ。
自分が綺麗にまとまった彼等の空気を壊すのは、とても耐えられそうになかった。
自分が部外者だと思い知らされるのは嫌だから。
「………馬鹿か、俺は…」
思い知らされなくても、自分は間違いなく部外者だ。既に彼等はイルカの生徒ではなく、イルカに連なる者ではない。彼等はカカシの部下で、カカシに連なる者だ。そして、どう考えても、イルカが彼等の仲間内に数えられるわけがない。
「………」
ため息をついて首を振り、イルカは里はずれの鎮守の森へ足を向けた。
別に、一人でいるのが嫌いなわけじゃない。
子どもの頃に親と死に別れてからは、ずっと一人で暮らしてきた。
今さら、家で一人でいるのが嫌だなんて言わない。
むしろ、一人でいた方が気持ちが楽だと思う。
だって、ずっと一人でいれば、自分が一人きりだなんて事は考えない。
自分が一人だと思うのは、近くに誰かがいて、自分がその輪の中にいないからだ。
よく言うだろう。
人の間にいてこそ、孤独を感じるのだ。
その通りだ。
自分が孤独であると判断する比較対象がなければ、そうは思わない。
誰かと笑っている人を見て、自分の隣に誰もいない事を嘆くのだ。
だから、一人でいるのは嫌いじゃない。
ぼんやりと木の上でひとり、里の家並みを見下ろしながら、苦笑を浮かべる。
「情けないな……」
彼等は確かにあれで一つの形として存在していて、それは干渉を許さないように綺麗であったけれど、自分があの中へ入っていっても、彼等はきっと何の文句もいわずに、自分をあの中へ入れてくれるに違いないのだ。
それなのに、できなかった。いつか、自分がそれを認められない日が来ると思っているから。
「…………」
人の輪の中にいるのなら、いつかその輪が壊れる日が来る事に怯え、人の輪の外にいるのならば、自分は独りだと思う。
あまりの弱さに、自分を嘲笑いたくなる。
「………帰るか……」
こんな所でぼんやりとしていたって、何が起こるわけでもない。
誰かが探しに来てくれるわけもないし、夕飯が降ってくるわけでもない。
ぽん、と反動をつけて、はるか下の地面にダイブする。
下忍になってすぐの頃は、こんな事でも楽しくて、皆で何度も繰り返して遊んだ記憶がある。地上に激突するまでに速度を殺し、綺麗に足から地面に降り立つ。やり方は様々で、昔からこの落下する時間がとても好きだった。
チャクラを練って枝の一本にぶら下がり、とん、と地面に降り立つ。無茶をして肩を傷めて怒られても、これが一番人気の降り方だった。
あの頃は、皆で走り回って過ごしていた。自分が置いていかれる事を想像する事なんてあり得ず、ただただ、楽しい毎日だったのに。今はもう、隣で笑う人もいない。
小さくため息をついて家へ足を向ける。
自分は独りであるわけないのに、馬鹿みたいに、一人だと思う。
どうしてこんなに弱くなったんだろうと思う。逃げ出すほど弱くはなかったはずなのに。
トン、トン、と軽くアパートの階段を上り、カギを取り出して顔をあげて、そこにいる人を見つけた。
「お帰りなさい。」
笑って手に持った袋を掲げる姿に、笑いがもれた。
「さっき、何で声かけてくれなかったんです?やっと帰ってきたのに。」
ゆっくりと足を進めると、それより先に腕がのびて抱き込められた。
「イルカ先生だ。」
安心したような声でそう言われて、苦笑が浮かんだ。
あんたがいなくて、気弱になってたなんて、口が裂けても言えやしない。
36400番(だったはず……)ゲッターのねこやなぎさんのリクエスト。
(2002.03.26)