この頃、イルカ先生と会ってないなぁ……
はたけカカシは、呑気にそんな事を考えながら、疎ましいくらいに真っ青の青空を眺めていた。
担当下忍たちの中忍試験の間、不正防止の為だとか言う理由を付けられ、待機命令が出ているため、昼間は何をするでもなく、おとなしく時間を潰していなくてはならない。もちろん、その間に己の技を磨こうという殊勝な人間もいるのだが、生憎カカシはそういう人間にはあてはまらない人物であった。
待機命令はあるものの、実際に監視がついているわけでもない為、部屋から出る事は可能で、何処で何をしていようと咎められる事はない。ただ、わざわざ、痛くもない腹を探られるために、妖しげにうろつくようなバカはいない。部屋にはいなくとも、試験会場の近くへは寄らないようにしているのが、普通だった。
そんな中、カカシは毎日のように、イルカを探していたのだが、何処を探してもその姿を見つけだす事ができないでいた。指折り数えて、今日で5日。2次試験が始まってから一度も会っていない事になる。1次試験が終わった時、偶然アカデミーの廊下で会った際に、ナルトの一次試験通過を知らせた時以来、姿を見かける事も、声を聞く事もないでいる。
「………外に出てるわけもないしな……」
イルカと知り合ってから、彼が任務で里を出るという話を聞いた事がない。もちろん、聞いていないだけで本当に出ていないかどうかは定かではないが、カカシが家を訪れれば、イルカはほとんど家にいたし、いないとしても、アカデミーで見つける事ができた。もちろんそれは、イルカが教員になった頃であったからなのだろうが、教員だという理由で里から出ないでいた人間が、細かい任務を任せる下忍の数が制限されているからといって、任務をまわされるとは思わない。もし、里の中の任務を受けているとしても、それを探し出せないという事があるはずはないと、カカシは自負している。それなのに、全くその気配すら探せないのだ。
「……イルカ先生………」
こんなにいい天気で、邪魔な下忍たちは傍にいないし、二人でのんびり陽にあたりながら、イルカ先生の膝枕で昼寝したら気持ちいいだろうなぁ。
半目で空を眺めながら、カカシは考える。イルカがそれを聞いたなら、男の膝枕の何が楽しいって言うんです?と気味悪そうに問いかけたに違いないが、今この場にそれを言う人間は存在しない。
ああ、俺が膝枕をしてあげるんでもいいか。イルカ先生、毎日色々忙しくて大変だろうし。そしたら、寝顔見ていられるし、それもいいな。
脳裏にイルカの呑気な寝顔を思い浮かべているカカシの顔は、覆い隠すものがなければ、相当の人間が周りから逃げ出したと思われる、妖しげなものであったが、右目以外がほとんど隠れている事が幸いし、怪訝そうに伺われる事だけで済んでいた事は、カカシにとっても幸いな事だったろう。
「………会いたいなぁ……」
昨日の夜も、家に帰っている様子はなかった。家に上がり込んで様子を伺っても、数日は家に帰っていないようで、生活感が薄れていた。待っても帰ってこない事はそれだけで予測がついて、結局おとなしく家に帰るしかなかった。
会いたいと思わない時ならば、会わない期間が五日だろうと十日だろうと、耐えなくてはならない時間には当たらない。だが、会いたいと思う時に会えない五日間は、とんでもなく辛いものだった。
「これがほんとの、切羽詰まる。って感じか?」
ははは……と、自分で自分に渇いた笑いをもらし、カカシはガクリと頭を垂らした。
この数時間後、イルカの姿を見つけだせる事を、カカシはまだ知らない。
カカシにとって、地獄のようなイルカの不在は、まだまだ続いていくようにしか、思えなかった。
(2001.02.23)