木の葉の隠れ里にも、年中行事は存在して、子どもが楽しみにする行事と言えば、お正月とクリスマスの二つがトップであることには、変わりはなかった。欲しいものがもらえる日は、やはり誰でも嬉しいものである。
「お前ら、文句ばっかり言う悪い子には、サンタクロース来ないぞ。」
寒いだとか、ショボイだとか、振り分けられた任務に文句をこぼす子ども達に、はたけカカシはそう言い放った。
「……は?」
3人が3人とも、カカシを馬鹿にしたような目で見返す姿に、カカシは一瞬ぴしりと固まった。
今時の子どもは、夢を見ないですからねぇ。なんて、報告所でイルカが同僚と話しているのを聞いた事があった事を、カカシは一瞬で思い出した。カカシは子どもの頃、サンタクロースが来ない事を寂しく思ったクチだが、彼らはそんなものの存在を信じていないのかもしれない。
「あ……」
「何言ってんだってば。サンタクロースが、里に入れるわけないって。」
呆れたようにナルトが言った言葉に、サクラがこっくりと頷き、サスケも同意するような表情でカカシを見ている。
「へ?」
「イルカ先生が言ってたもの。サンタクロースだって、里への侵入者なんだから、来られるわけないだろ。って。」
サクラもそう言って、サスケに同意を求めている。
「……あぁ……そう…だな…」
何と返せばいいのかわからず、カカシは虚ろにそう答え、問いを返す。
「なんで、そんな話になったんだ?」
「えっとね…確か、誰かがサンタクロースはお父さんだって、言ったのよね。その時に、イルカ先生が、プレゼントくれるのはお父さんかもしれないけど、サンタクロースはいるぞって。」
「それで、なんで来ないんだって聞いたら、サンタクロースだって、入れないんだぞ。って。」
あの人らしいと、カカシはこっそり笑みを浮かべる。きっと、必死に考えて出した答えなのだろう。
「それで、クリスマスの日に、プレゼントくれたんだってば。」
ナルトは嬉しそうにそう言って笑い、カカシはプレゼントを用意するイルカを思い浮かべた。きっと、あああでもないこうでもないと、必死になって選んだ事だろう。親のいる子がもらえて、親のいない子が貰えないなんて事にならないようにと、あの人ならば考える事だろう。
「いたずら坊主に、サンタがプレゼントくれるって?」
からかうように問いかけるとナルトは得意げに胸を張った。
「俺ってば、威勢のいい子。なんだってば。」
「は?」
「私は、頭のいい子だったの。サスケ君は、かっこいい子。」
サクラも嬉しそうにそう言い、サスケも黙ってはいたが、まんざらでもないような表情を浮かべている。
「いい子。」
世界中のよい子にプレゼントを運んで来るサンタクロース。その代わりにプレゼントをくれるイルカ先生は、彼らがどんないい子であるかを示してくれたという事らしい。
サスケの『かっこいい』にはかなりの苦しみが見えると、カカシは思う。こう見えて努力人であるサスケは、努力する子。ではいい子にはならず、努力するいい子。では、努力しない子は悪い子という意味を持ち、愛想も良くない、元気もいいとは言い切れない。では、かっこいい子。が精一杯だろう。多分、イルカの事だから、顔かたちが良いという意味で、それを当てはめたわけではないだろうが、それくらいの事は、サスケには分かっている事だろう。
「で、イルカ先生は何をくれたわけ?」
「ケーキ。」
「苺が乗ってて、皆で教室で食べたんだってば。」
持って帰って一人で食べるのは寂しいから、教室で皆で祝う。そんなところも、イルカらしい。多分、彼もそういう寂しいクリスマスを過ごした事があるのだろう。
「…そりゃ、イルカ先生も大変だな。」
「だから、おれたち手伝いしたんだってば。な、サスケ。」
「………ああ…」
サスケが小さく頷き、サクラはそれに声を挙げた。
「あれ、サスケ君が作ったの!?」
「ミズキ先生もいたってば。イルカ先生、炊飯器でケーキ焼くんだってばよ!」
そりゃ、邪道だ。と、カカシは腹の底で呟き、それでも、それでこそイルカだと、ほっと息をついた。イルカならば、あるもので何でも作ってくれそうな気がするのだ。
「…あ…内緒だったんだっけ…」
ちらりと自分に向けられたサスケの視線に、ナルトはぽつりとそうこぼした。
「どうせ、その後にイルカ先生にご飯食べさせてもらったんでしょう?」
サクラが笑って言い、ナルトは小さく頷いた。
「やっぱり!…イルカ先生も言ってくれれば、私だって手伝いに行ったのになぁ…」
サスケにちらちらと視線を送りながらサクラは言い、サスケはそれに気付かぬふりで足を進めていく。
「…でも、アカデミー卒業しちゃったから、クリスマスプレゼントはなしかなぁ……」
下忍とは言え、任務をして金を受け取る事になったわけだから、サンタクロースのプレゼントを期待してはいけないのかもしれないと、ナルトは少し寂しく思った。
去年のクリスマスが、ナルトにとって、一番楽しかったクリスマスだった。サスケは気に入らなかったが、皆に内緒でする作業は楽しかった。イルカもミズキも、楽しそうに笑っていて、サスケもどこか楽しそうだったのを覚えている。
「……じゃ、今日の任務が3時までに終われたら、俺がプレゼントやるよ。」
カカシはそう言ってナルトの頭をかき回した。途端に、サクラとナルトは目を輝かせ、先を歩くサスケを追い抜いて駆け出した。
「サスケ!早くしろってば!」
「サスケ君、早く!」
二人揃ってサスケを呼び、サスケも遅れる事は気に入らないのか、二人の後を追い掛けて走り出す。
カカシはそれを見ながら、苦笑を浮かべて印を結んだ。
「イルカ先生のところに頼むぞ。」
足元に現れた忍犬に伝言を託し、カカシはゆっくりと子ども達の後を追い掛けた。
任務受付所に座っていたイルカは、現れた忍犬を見て、それを手招いた。
幸い、受付には客はおらず、イルカは足元へやってきたそれを抱き上げて、伝言らしき紙を受け取った。
『ナルトたちとクリスマスを祝いたいのですが、いいですか?』
それを見て、イルカは思わず吹出した。
「用意しておきますって、伝えてくれるか?」
膝の上でおとなしくしている忍犬に声をかけると、それはこっくりと頷いて、イルカの膝から飛び下りると、ゆっくりと受付所を出ていった。
「……どういう風の吹き回しだろ……」
昨日まで、二人っきりで過ごさなくちゃ嫌だと、子どもの用にごねていた人が、一体どうした事かと、イルカは首をかしげる。もちろん、子ども達と過ごす事は、イルカには何ら問題のない事である。大体、イルカがナルトたちも一緒に祝いたいと言うのを、カカシがごねたのだ。それを、今日になって、一緒でいいと言う。誘わなくても駆け込んでくるかもしれない子どもの事を考えて、家には多めの食材も用意してあるが、彼らが来ると決まったのならば、帰りにケーキでも買って帰ろうかと考える。
「……?」
紙をもう一度見直したイルカは、その端に書かれている文字を見て顔を赤くした。
『皆で、炊飯器でケーキを作りましょう。俺のかわいい人。』
(2001.12.24)