一方通行



「どう思った?」
 問い掛けられて、首を傾げると、サンジは小さく、『ロビンちゃんの』と言った。
 ロビンが、自分達を逃がす為に、無茶な話に乗った事。
「なんか…驚いた。」
 空島に行って、帰ってきて、自分達は確かに以前よりも仲間らしくなったと思う。もう、警戒心なんてなかったけれど、でも、そこまでするような感情があるとは思っていなかった。
「驚いた?」
 返答が意外だったのか、サンジは不思議そうな顔で問い掛ける。
「結局、人間の感情なんて、一方通行でしかないんだなって。」
 ロビンが自分達をそこまで優先しようとする程、大切に思っていた気持ちは、こちらには伝わっていなかった。
 勿論、憎んでいるとか、恨んでいるとか思っていたわけではないし、本当に仲間としてここにいる事を選んだのだろうと思う程には、示される好意を理解していたと思う。
 だけど、ロビンの行動は、想像以上の感情を伴っていたわけで、その度合いを、自分達は計り切れていなかった。
「一方通行って?」
 サンジは、ゾロが言う言葉の意味を計りきれずに問い掛ける。
 ルフィも、相当、感覚でものを言い、思考経路と出てきた言葉がどう繋がるのかがさっぱりわからない時があるが、ゾロも時々、サンジの想像を遥かに外れた答えを返す事がある。こうなると、説明をされない事には何を本当に思っているのかはわからない。
「お互い憎みあってるにしたって、好きあってるにしたって、結局のところ、その度合いが完全に一緒になるって事は有り得ねぇのか、ってこと。」
 一方通行ってのとはちょっと違うけど。と、ゾロは付け足し、サンジはそれに同意して頷いた。
「俺とお前は好きあってるけど、お前がどれくらい俺の事好きかは、俺には本当のところはわからないからな。」
 ゾロは、俺の事が好きだけれど、俺を最優先にする事なんてないだろうと、俺は思っているけれど、実際それが本当にそうなのかなんて、俺にはわかる事じゃない。
 サンジはそう思って苦笑を浮かべる。
「言わなくちゃ、通じないって、お前はよく言うけど、言ったって、通じない部分は残るんだなって。」
 それを言う人間の感情は、それを聞く人間の経験で判断されるから、全部を理解する事は不可能だ。
「……俺達の何が、ロビンにとって、そこまでさせるきっかけになったんだろうな。」
 自分の命を賭ける事になっても、それで構わないと思わせるだけの何かを、自分はロビンの為にしただろうかと、ゾロはあの時不思議に思った。
 ゾロは勿論の事、他の仲間達も、特別な何かをしていたとは思わない。特に、ゾロは自分が彼女を長く警戒して、敵視していた自覚がある。ああまでさせる何かを、自分がしたとは思えない。
「お前は、ロビンちゃんに冷たかったしな。」
 俺のあれは社交辞令だってわかってるだろうし。とサンジは呟き、難しい顔をしたゾロを眺めながら、先程の自分の言葉をまるで当然の事のように聞き流しているゾロに驚く。
「ルフィのおまけ、って理由じゃ、ああまでしないだろう?」
 そういうのも、なんか意外だった。と、ゾロは呟く。
「俺は、お前がさっき俺が言った事を否定しないのに驚いたけど。」
「へ?」
 ゾロはきょとりとサンジを見返し、さっきとはいつかと視線で問いかける。
「俺達、好きあってるよね。ってこと。」
 今まで、そんな事がなかったのが不思議なのだが、そういう確認をした事がないから、ゾロがそれを否定しなかったのは、サンジには意外だったのだ。
「………別に、否定する事じゃねぇだろ。」
 ぷい、とそっぽを向いて、ぞれでもゾロはそう答え、怒ったように立ち上がった。
「お前はどうせ、自分の方がずっと、俺の事が好きだなんて思ってるんだろうが、そんなの、知れたもんじゃねぇぞ。」
 真っ赤な顔をして、それでもゾロは上からサンジを見下ろして言い放つ。随分、頑張って発言したらしく、恥ずかしそうなのに怒った顔もしていて、サンジはそれが嬉しくて仕方がない自分に驚く。
「……俺、かなり、お前の事好きだよ?」
 でも確かに、ゾロがこんな事を言うなんて考えもしなかったから、俺達の気持ちだって一方通行部分が大きいのかもしれない。
「そんなの知ってる。」
 お前が頭おかしいのだって知ってる。とゾロは言い、サンジは思わず吹き出して、ゾロの腕を引く。
「でも、ゾロはそんな俺が大好きなんだよな。」
 でも、お前は、俺の事愛してるとは言わないねぇ。と、サンジはぼんやり考えて、寄ってきたゾロの腰に腕を回してしがみつく。
「なんでかわかんねぇけどな。」
 ゾロはやはり否定せずにそう言って、サンジの頭を、ぱふぱふと叩く。
「お前の方が、俺の事ずっと好きだといいなぁ。」
「ほらみろ。お前、そうじゃないと思ってる。」
 わかんねぇんだから、そうだと思ってればいいじゃねぇか。とゾロは言って、両腕でサンジの頭を抱え込んだ。

 
 

以前に日記に書きたいと書いていたネタの一つ。
ロビンをダシにして、イチャイチャさせたかっただけなのよ…というわけではなかったと思うのだが…

(2005.06.29)



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