獣の聞く声



未だ来ず 何れ来る
 
引き寄せるに必要なのは 長い腕か 強い意志か
 
どちらも共にと 叫ぶ声が 響き渡る
 
全ての者が 叫ぶ船






「何してるんだ?」
 見張り台の縁に立って、目を閉じて俯いている姿に驚いて、恐る恐るそう声をかけると、目が開いて、金茶の両目がじっと見返してきた。
「声を聞いてる。」
 いつもの彼と違って見えるのは、今が夜で、その背後に大きな丸い月が見えるからだろうかと思って、ただじっと見返せば、彼はまた目を閉じて、下を向いた。
「ゾロ?」
「さっきまで、お前の声もしてたぞ。」
 楽しそうに笑って、再度目を開けた彼が、ぽん、と見張り台の中に降りてきて、座りながら俺をひょいと抱き上げて、膝の上に降ろしてくれた。
「俺の声も?」
 寝言でも言ってたのかと思って、彼の顔を見上げると、頭の上にちょっと重みが掛かる。
「俺は、何でも治す、万能薬になるんだ! ってな。」
 それは、自分の目指している未来で、彼がそれを応援してくれているのも知っている。勿論、船の皆が、応援してくれているのだけれど。
「そんな事言ってたのか?」
 ここまで聞こえてくる寝言なんて言って、皆が起きなくてよかった。と思う。
「昼間より、夜の方がよく聞こえる。」
「え?」
「……俺も、って思う。」
 見上げた彼は、いつもよりずっと穏やかな顔をしていた。
「ゾロ?」
「聞こえるだろ?」
 問い掛けられて、目を閉じる。
「……………うん。」
 叫ぶ声が聞こえた。
 船の皆の声だった。
「聞こえる。」




声高に 己の未来を 叫ぶ船

 
 

激短文は、突然ネタが降ってきた証。
これを練り込まずに書くから激短。
本当は、もっと長くちゃんとしたお話を書きたい。ネタでもある…

(2004.10.25)



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