2年ぶりに会ったら、どう思われるだろう。
2年ぶりに会ったら、どう思うんだろう。
離れている間に、そんな風に考えた事はなかったけれど、もう後少しで会えるのだと思ったら、ふいにそんな事が気になった。
2年前の自分より、強くなったのだとわかるだろうか。
2年前の自分より、頼りになると思ってくれるだろうか。
2年前の自分より、隣に立って安心してくれるだろうか。
期待は幾らでも高まるが、不安も幾らだって大きくなる。
自分より、心を砕いた人間がいるだろうか。
自分より、側に寄せた人間がいるだろうか。
自分より、大切に思う人間がいるだろうか。
2年の間に、自分の立場が変わっていたらどうしよう。
既にお前なんて、過去の人間だなんて言われたら。
2年前のあいつより、負けたくないと思わないことがあるだろうか。
2年前のあいつより、腹立たしいと思わないことがあるだろうか。
2年前のあいつより、好きだと思わないことがあるだろうか。
2年の間に、自分の気持ちが変わっていたらどうしよう。
あんなに好きだと思っていた相手が、そうでなくなっていることがあったとしたら。
2年は意外に長いのだと気付いた。
でも、そんな不安の中にも、自信もあるのがおかしい。
2年前の俺よりきっと、お前の事をもっと大事にしてやれる。
2年前の俺よりきっと、お前ともっと張り合ってやれる。
2年前の俺よりきっと、お前を本気で戦わせてやれる。
それだけの努力はしてきた。
それだけの成果は手に入れてきた。
あとは、お前に会うだけだ。
お前に会ったその時に、互いに何を思うのか、それが歓びだったら、万々歳だ。
うじうじと、泣くかもしれない。
そんな事を思ったのは、事実だ。
だからと言って、どうする事もできないのだから仕方ないと思った。
そして、奴は目の前で叫んでいる。
「いいか、俺がどんなに必死に料理を覚えたってな、潰れた目玉が復活するような料理なんかねぇんだよ!」
2年前なら、酒に酔って泣き言を言うのが精一杯だった男が、酒に酔って叫んでいる。
「怪我の回復が早くなる料理だの、疲れを取る料理だの、必死に覚えてきたってな、そんなもん、俺でどうにかなるか!」
俺が変わったのだとしたら、こいつも変わっているのが当然だ。
けれど、こういう変わり方をするなんて、実のところ、想像していなかった。
「聞いてんのか、クソ剣士!」
ああ、俺の為に、必死に怒る事のできる男になるなんて、どうして想像できただろう。
「聞いてる」
お前にとって、俺の目はそんなに重要だったか。
お前にとって、俺はそんなに重要な人間だったか。
2年経っても、変わらず俺は、お前にとって重要な人間か。
「だったら」
「俺も、お前が誰より大事だ」
この先もまた、お前と共に歩ける事は、何よりの歓びだ。
きっと、何の問題もないと、言うんだろう。
その目を初めて見た時そう思った。
けれど、笑って奴が言ったのは、『腕は無事だぜ』だった。
それは、ずっと追いかけてきたあの人が、笑いながら言った言葉によく似ていた。
『舌はなまっちゃいねぇぞ』
足をなくそうと、目をなくそうと、本当に大切なものを知っている奴らは、平気でそんなことを言う。
自分の中に順番がはっきりついていて、本当になくせないもの以外なら、何がなくなったって気にもしない。
多少の不便は感じるだろう。けれど、そんなものには何れ慣れる。
だから気にしない。
それがどんなに羨ましくて恨めしいのか、考えた事だってないんだろう。
2年経って、自分も成長したと思っていた。
確かに、もう泣きたくなりはしない。けれど、全く悲しくないわけでもない。
俺の到底到達できないところに奴らはいる。
悔しいのかなんなのか、わからないから腹が立つのだ。
目の前で穏やかな顔をして眠っている男の片目は、この先も開く事がないだろう。
離れていた2年の間に、何があってこうなったのかも知らない。
その2年の間、側にいた男の話も聞いた。
倒すべき人間に教えを乞うたのだと聞いた時には驚いた。
追いかけて追い越すべき者に、そんな事ができる人間だなんて思ってもみなかった。
2年の間、何を話し、何を感じ、何を教えられたのだろう。
自分が追いかけていた背中は、途方もなく大きく、遠くにあるように感じたが、この男も同じように感じただろうか。
その背中を追い抜いてここへ来たのだろうか。
そう思ってふと逸らした視線の先にある刀に目が止まる。
この男が本当に追いかけている背中は、それではないのだ。
その背中はずっと小さく、細く、儚く、美しいものであるはずだ。
どんなにあがいても一生追い抜く事などできない、遠い記憶の中にあるものだ。
どんなに強い男も、どんなに大きな名声も、どんな呼び名も、本当にこの男が追い求めているものではない。
たった一つの約束を胸に、たった一つの夢に向って。
そんな男に、どんな言葉が通じるだろう。
どんなに多くの料理を学んだところで、なくした足が生える料理などなかったように、潰れた目玉が元に戻る料理もない。
その怪我を早く治す為の料理を作ったところで、それ以上の怪我を負ってきたなら、何の役に立つというのか。
お前の身を大切にしてくれと言ったところで、大切なものがそれでない人間に、どれ程の効き目があるだろう。
死すら厭わぬ人間に、何を恐れるものがあるだろう。
道半ばにして死にたいのかと聞いたところで、その為に逃げるのは嫌だというのだろう。
「頼むから、次は治る怪我にしてくれ」
お前が後悔などしていないのなら、俺が何を言える立場でもないのはわかっている。
けれど、これ以上何もなくしてくれるな。そう思うのは自由だろう。
「そうしたら、俺が何とかしてやるから」
そっとその傷跡に指を滑らせても、相変わらずその目が開く事はなかった。
瞼に当たる感触は、柔らかいくせにしつこく繰り返される。
気になって仕方がないなら、素直にそう言えばいいものを。と両目を閉じたままで思う。
容姿が変わったのはお互い様だが、中身も相当変わっているのではないかと期待していたのに、
こちらが寝ている時を見計らって近付いて来る姑息さは、全く変わっていない。
もっと根性見せろよ。
以前からずっと言ってやりたかった事だが、相手のプライドもあるだろうと堪えていたのが悪かったのか、
早々に言ってやるべき事だったのかもしれない。
寝込みを襲われたって、卑怯者と誹って泣き出すような人間でもなし、全くこちらをなんだと思っているというのだろう。
いっそ食らいついてきたって、然して気にもしないのだけれど、紳士は何を気にするものか、想像もつかない。
「言いたい事があるなら言えよ」
離れた隙を見計らってそう声を掛けて目を開ければ、目を見開いて歪んだ顔がそこにある。
「……その目、どうしたんだよ」
何度も口を開いては閉じて、しびれを切らして殴りつけようかと思った頃にやっと、その口から声が溢れた。
「食った」
一瞬で青ざめたその顔を見て、未だにそれは地雷かと、堪えきれずにため息が出た。
「んなわけねぇだろ」
目玉は完全栄養食らしいって話だけどな。と付け足して、踞る背中を置いて船室へと足を向ける。
早く早く、もっと強くなればいい。
2年後開始の頃にぽつぽつ書いたもの。拍手にあったり、某所に投稿したり。
これ以降、まだワンピ書いてないんですが、まだなんとなく、原作の動向がわからないせいかなと。
まだサンジがうじうじしているのが、開始直後をあらわしているような。
(2011.3.23)