THE GOOD, THE BAD, AND THE 役者

キネマ旬報 1996年 7月上旬号 No1195号より

 数々のオリジナル・ビデオ作品や原田眞人監督作品などで、味のある活動を続けてきている若手役者の一人が、今回登場の大城英司さんだ。最近特に印象深かったのが『トラブルシューター』で見せてくれたオカマのジュリエット役だろう。明日のブレイクのために、どんな小さな役でも!昔も今も、映像はそんな愛すべき役者達の真摯な姿勢によって、実は支えられているのである。


鬼太鼓座から役者へ

原田眞人監督との出会い


―まず、大城さんがこの道に入られたきっかけからお聞かせください。なんでも俳優になられる以前、鬼太鼓座にいらっしゃったとか。

大城 ええ。ちょっと変わっているんですよ。僕は高校の時に駅伝やってたんですけど、鬼太鼓座は1日20キロ走らされるんです。で、たまたま僕が入るひとつ前の期の人たちが、ヨーロッパ公演から帰ってきてほとんど抜けちゃったんです。ヨーロッパには来年も行かなきゃいけないのに、人数が足りない。そこで座長が、ドラムのテクニックのある奴に体力つけさせるよりも、もともと体力のある奴にドラムを教えた方が早い、九州で駅伝の強い高校から6人ほど、陸上をやってた僕ら新卒の人間を入れちゃったんです。で、いきなりレギュラーメンバーですよ。誰もいないんですからね(笑)。


―鬼太鼓座は、やはり厳しいのでしょうね。

大城 体力的には楽でした。高校の時の方がきつかったですね。結局、その後喧嘩してやめちゃいましたけど(笑)。外に出たらただの健康なお兄ちゃんですよ。それで、役者やろうと。役者だったら自分の名前が看板になる。その程度なんですよ。


―原田眞人監督との出会いは?

大城 OV『タフ』の1作目です。鬼太鼓座で一緒に回っていた津軽三味線の方が長谷部日出雄さんの『夢の祭り』で吹き替えをやってらっしゃったんですけど、その時の助監督さんを紹介してもらえて、その方が押してくれて『タフ』に出演できる事になったんです。それが縁となって『KAMIKAZE・TAXI』『トラブルシューター』と出演させていただきました。僕は当時小さい役で出まくってたんですけど、『タフ』の1作目って、いわゆる名の知れた人よりも、舞台をやってる人が多く出演されているんですね。。豊川悦司さんもそうだし、渡辺哲さん、大久保鷹さん…。素晴らしい作品でしたね。


―映像作品への出演は『タフ』が初めてだったんですか?

大城 フィルムは初めてでした。VTRだとTVドラマや、企業教育ビデオだと2,3本主演しましたよ(笑)


―ご自分で今まで出演された作品の中の役柄で、印象深いものはなんでしょうか?

大城 やはり『トラブルシューター』のオカマのジュリエットでしょうか。あと、後藤大輔監督の『ワニ(82)分署』の強盗殺人犯役も自分としては気に入っています。


―『トラブルシューター』の場合は、どのようないきさつで。

大城 実は準備稿ではあの役はなかったんですよ。で、監督の頭の中では、ロミオの役をレズにするかホモにするか決まってなかったらしくて、その打合せだかの時、僕がたまたま製作会社に『右向け左』の台本を取りに伺ったら、監督から「お前どうしたんだよ…これ出てみる?オカマやる?」(笑)こちらは即「やりますやります!」と。それで急遽オカマの役を決定稿で書き足されて、ロミオとジュリエットになったんです。


―役作りとかは?

大城 今までドラマなどに出てくるオカマって、どこか違和感があった。鼻につく事の方が多かった。実は僕の知人が新宿2丁目で店をやってて、当時そこで経理とかのバイトをやってたものですから、悪いけどオカマならうるさいゾ!と(笑)。でも演じてみて、その難しさがわかりましたね。オカマって人前では素じゃなくて、一個作ってるでしょう。多分家に帰ると違うと思うんですけど、でも僕は素の状態から一個作ってるオカマを観察し、そこからさらに作るわけで、その難しさです。それで監督とも相談しながらやったのですが、要は押さえてやってほしいとの事だったので…。


―原田演出って事ではいかがですか。

大城 いやぁ、最高ですよ。あんまりそればかり言っちゃうと、他の監督から使ってもらえなくなるのでヤバイですけど(笑)。愛情があるし、その許容量がすごいですよね。こっちの考えてくるプランもだいたい受け入れてもらえるし、受け入れられるというのは、多分かんとくがその役にひとつ対して100通り以上の事を考えているからだと思うんですよ。北方謙三さんの『檻』を撮りたいとおっしゃってましたけど、それもぜひ出演したいですね。自分としては勝手に原田ファミリーだと思ってますから(笑)。



与えられる役をただ待つだけでなく


―『トラブルシューター』『ワニ(82)分署』の他にも、去年はOV『監禁逃亡3』『同6』などに出演されてますね。

大城 『監禁逃亡』シリーズのプロデューサーが僕の事を可愛がって下さってて、それで池田敏春監督に会ってみないかということから、『3』のハードゲイの誘拐犯役で出演できる事になったんです。誘拐する男の子と対比させるため、脚本では屈強な大男という設定だったのですが、僕は屈強ではないし、実は彼より1センチ背が低かった(笑)。それで髪の毛と眉毛を脱色して、撮影に入りました。


―今後の方向性としては、いかがですか?

大城 僕は脚本も書いているんですよ。まだ1本もものになってないんですけど。『右向け左!』で共演させていただいた今井雅之さんからヒントを得たんです。自分でやりたい役を自分で書き、それが企画を通れば自分もキャスティングされる。与えられる役をただ待っててもしょうがない、出るところに出たい。でも全くのド新人で実績がないのもまずいから、とにかく1本ものにしたいと思ってます。


―これから、どんな役者になりたいですか?

大城 作品の度にまるっきり違うキャラクターで…この役者だれ?こんな役者いた?見てくれる方達にそう言われるような、名前が売れてもそんな役者になりたいですね。その意味では僕はキャスティングに恵まれていると思うんです。いろんな役がやれて…。OV『ワニ(82)分署・Rebirth』が8月に発売になりますけど、そのワニ分署の刑事役が自分では結構気に入っています。髪の毛8・2に分けて、こんな刑事絶対にいない、そんなキャラクターになりましたけど(笑)。あ、渡辺哲さんが署長役で、これがまた面白いですよ(笑)。


―その他、最近の活動としては?

大城 井筒和幸監督の『トラブルバスター』に、タイトルが出る前の3・4シーンほど、TVバラエティ番組AD役で出ることになったので、知り合いのTV局のプロデューサーにお願いして、『ダウンタウンDX』の現場を見学させてもらい、フロア・ディレクターの仕事とか雰囲気とかを教えてもらいました。それと『KAMIKAZE・TAXI』のチーフ助監督だった矢城潤一さんが『ある探偵の憂鬱』という作品で監督デビューする事になり、それに主演します!僕は長崎出身なんですけど、地元で映画祭を行ったり、そこでまず上映できればと思ってます。


―長崎といえば『KAMIKAZE・TAXI』の役所広司さんも、長崎出身ですね。

大城 ええ、同じ諫早で、実は近所なんですよ。役所さんのお兄さんと僕のおじさんが同級生なんですよ。それで上京する時、役所さんの住所と電話番号を教えてもらってたんですけど、面識もないのに連絡するのも気が引けちゃって、そのままだったんです。でも『KAMIKAZE…』の顔合わせで初めてお会いして、その時同じ諫早ですとお伝えしたら、「おおー!」と。あとはもうお互いずっと諫早弁でした(笑)。

(取材・構成/編集部)