『清流』(清流出版)2000年7月号

 

 

初主演映画『ある探偵の憂鬱』公開直前に熱く語った映画に対する想い…

         最新のインタビュー記事(インタビュー2000年4月25日)

             

            映画語る         大城英司さん

 映画の独特な雰囲気が大好きです。予告編が終わって本編が始まるまでのスクリー ンの黒みがたまらない。映画ってTVじゃ伝えられない“何か”があると思うんですよ。 もちろん、舞台で何千人もの観客から大きな拍手をもらう時の快感もホントに鳥肌 もの

−僕は高校を卒業してすぐ鬼太鼓座に入りましたが、その半年後のヨーロッパ 演奏旅行に参加して、実は十九歳でこの快感も味わってしまった…!!  しかし、鬼太鼓座を離れれば、僕は太鼓は叩けても楽譜すら読めないただの健康な お兄ちゃん−それで一念発起して東京へ出て俳優養成所に入りました。 アルバイトをしながら小劇場の舞台に参加。その後、VシネマやTV、映画の仕事 をするようになりました。言うまでもなく初めはチョイ役。当面の僕のテーマは与え られたシーンをどうこなすかです。 監督の目から見れば、僕などワンシーンの役の人としか映っていない。NGを出すわけにもいかないけれど、目立たなければ監督の目にも止まらないし、仕事もおもし ろくない。それで、僕なりに演技だけでなくいろいろな工夫をしました。 コテコテのチンピラなら、太い金のネックレスとテキ屋の親父が首から下げている、 あのお守りが決め手。耳に煙草まで挟みます。もちろん、分析したチンピラの性格に 応じて煙草の銘柄にも気を使います。この時は「ハイライト」。宅配ピザ屋(なんと、 この役は木村一八さん)の陰に殺し屋が潜んでいて、チンピラの僕は玄関を開けたと たんに撃たれてしまう−たったそれだけのシーンでしたが、あれこれ真剣に試行錯誤しました。やり過ぎはまずいので、監督の顔色を伺いながらですが…。  

濡れ場をこなすために体型にも気を使いました。僕のこの顔でぽってりお腹が出て いるんじゃ、ちょっといただけないので、ジム通いに精を出したこともあります。  実は昨年から居合を始めて、この度、初段をいただきました。これはチャンバラ、 つまり時代劇は日本人にしかできない、日本人の、日本映画の財産だと気づいたから です。それまで衣装の中にどう刀が納まっているのか、脇差しはどう差すのかも知り ませんでした。居合のおかげで刀さばきが少しはさまになったと思います。  

駆け出しの頃は名前のない、たとえば「刑事A」という役なのですが、徐々に「名 字だけ」→「フルネーム」と出世(?)していって、台詞も多くなっていきました。 そして、初めての主役です。『ある探偵の憂鬱』(監督・脚本/矢城潤一)は、監督が自己資金で三年がかりで完成させた作品ですが、淡々と静かで何も起こらない、 正直言って商業ベースには乗らない種類の映画です。それでも1998年のバンクー バー国際映画祭新人監督部門にノミネートされました。残念ながら賞は逃しましたが、 ふかふかの赤絨毯の華やかな会場でドレスアップして発表を待つ緊張感もまた悪くは なかったです。  

TVは寝転がったり、食べたり飲んだり、みんな“ながら”で見ていると思います。 チャンネルだってコロコロ変えられてしまう。途中でトイレにも立つし、電話がかか ってくれば、そちらを優先します。  もちろん映画だって途中で他のことを考えていたり、ウトウト寝入ってしまうこと もありますが、とにかく前提に「この映画を見るぞ」という姿勢があると思うのです。  だからこそ、僕はこれからもいろいろな役を演じたい。そして、現場で監督や他の 役者さんに自分の意見をきちんと言える立場を確保するためにも、もっともっと映画 の世界にどっぷりと浸かっていきたいな、と思うのです。

インタビュー・構成 吉川さゆり・ 蜂須賀裕子