オーバーブロウ



一昔前、高音域の吹音ベンドのことをこう呼んだことがある。しかし今はそう呼びません。7-10穴の吹音ベンドはあくまで吹音ベンドであり、オーバーブロウとはまた別のテクニックを指すに至りました。 それではオーバーブロウとは何なのか。それを説明する前に、ベンドをもう一度考え直してみる必要があります。

下の表をご覧ください。

C Major key
穴番号12345678910
吸音DGBDFABDFA
吸音ベンド音DbF#
F
Bb
A
Ab
DbEAb--------
吹音ベンド音------------BEbGbBb
B
吹音CEGCEGCEGC


過去何度か出てきた、C Major Keyによる音配列とベンド音の表です。4穴に注目してみてください。吹くとC音、吸うとD音、ベンドするとDb音… 今度は3穴注目です。吹くとG音、吸うとB音、そしてベンドしていくとBb、A、Ab… 
この二つの穴の違いはなんでしょうか?そして共通する部分はなんでしょう?そうです、違いは、吹音と吸音の音のインターバル(音程幅)が違うこと、そして共通点は、ベンド音が吹音音程より下には下がらない、と言う点でしょうか。 4穴吸音ベンドはDからDb、そしてそれ以下まで下がりますが、C音以下までは下がりませんし、3穴に至ってもG音以下には下がりません。だがしかし、仮に4穴のC音をB音のリードと取り替えた場合、D音はベンドによりB音近くまで下がるのです。
吸音ベンドって、吸側リードが音程変化していくんじゃないの?とずっと思っていましたが、このことから、吹音リードも関係してるのではと疑問を持ちはじめました。そしてこの明確な答えは、あるHamonica Makerの開発担当者Hさんによって教えて貰うことが出来きました。

ベンドは、変化させようとしてるリードと相反する側のリードの影響を受ける。例えば、4穴の場合、吸音リードD が確かに音程が下がっていくが、同時に吹音リードCも手助けしている。最終的にDbの音まで下がるが、その時強く鳴っているリードは吸音側リードDでは無く、吹音側リードCの方である。
これは言い換えると、ベンドというのは、相反する側のリード音程を半音吊り上げる、とも言える事で、実にショッキングな特性事実だった。確かに10Holesのカバープレートを外し、吸音側のリードを指で抑えつつ、なおかつ息を吸うと、吹音側のリードCの音程が変化し、半音吊り上がった音程、Dbが鳴ることが確認できました。 逆に吹音側リードCを指で抑え、吸音側リードだけで吸音ベンドしようとすると、下がりが悪い。3穴に至っては、Abまで下げるのは困難で、まさに吹音側のリードが手助けしてると言うことが実感できました。

余談ですが、クロマチックハーモニカというのはリードに弁が張り付いていて、演奏してる反対側のリード穴を弁が塞ぎ、空気効率を良くしてるように思うのですが、これによってベンドがしにくいと考えられます。クロマチックでも弁がついてないタイプ(黒いプラスティックボディのCXなど)はリードの相互干渉が起こるのでベンドがしやすかったように思います。

話を元に戻します。4穴が半音しか下がらないのに、3穴が1.5音も音が下がる謎の解答は、吹音リードの干渉という事で納得が行きます。吹音リードが干渉するからこそ吸音リードはその音程変化幅が決定する訳だし、最終的に吹音リードの半音吊り上げによってそれより下の音程には下がらなくなる。 少々大雑把ですが、こんな感じです。息を吸ってるのに、吹側リードが半音上がる。この特性を知ることが、オーバーブロウを知る鍵になります。


ベンド理屈のその逆もまたベンド


息を吸ってるのに、吹音リードが半音吊り上がるのがベンド、それが特性または理屈なのだとしたら、その逆のパターンはどうなんだろう。
息を吹いてるのに、吸側のリードが半音吊り上がる。こんなことが起こるのだろうか?10Holesのカバープレートを外し、吹音リードを指で塞ぎ、なおかつ吹いてみる。これで息は吸音リード側から 抜けるはずだ。少々吹音ベンドの要領で、負荷をかけながら吹いてみる。すると、、、鳴った。しかも吸音リード音より高い音程を奏でながら。だがしかし、かなりうるさい音である。
実際コントロールが難しく、10Holesの技術の中ではかなり難しい部類だ。最近は10Holes Makerの知識や技術が向上していてオーバーブロウしやすいものも出てきてはいるが、それでもコントロールは難しい。 だが、確かに鳴った。吸音側リード音の半音上である。4穴で言うなら、D音の半音上、Eb音が鳴る。

これがオーバーブロウです。Howard LevyというPlayerがもたらした革命技術とも呼ばれています。確かに難しいのですが、優れたハーモニカを使用したり、シビアなリード調整をすることによって、普通のベンド音と同じくらいの感覚で出すことが出来ます。 まぁ練習次第なんでしょうね何事も、、、

なお、同じような理屈で、7-10穴間でのオーバードロウというのも存在します。これによって、10Holesがやっとこさクロマチックスケールを演奏することができるようになります。素直にクロマチックハーモニカを使用したほうが良いのか、それとも10Holesの持つ音であらゆる技術を駆使した方がいいのか、私には分かりません。人それぞれだと思います。 ただ言えるのは、クロマチックだろうが10Holesだろうが、こういった技術を生かした素晴らしいPlayerがいることは事実ですし、逆にこのようなテクニックをまるで用いなくとも音のよさ、表現力、Positionの使い方、いろいろな面で素晴らしいPlayerだっている訳ですよね。すべては演奏者次第だろうな。

では、表を用いてオーバーブロウ、オーバードロウの音を追加してみましょう。こうなります。

C Major key
穴番号12345678910
オーバードロウ------------DbFAbDb
吸音DGBDFABDFA
吸音ベンド音DbF#
F
Bb
A
Ab
DbEAb--------
吹音ベンド音------------BEbGbBb
B
吹音CEGCEGCEGC
オーバーブロウEbAbCEbF#Bb--------


音がダブってる部分を整理しますと

C Major key
穴番号12345678910
オーバードロウ------------Db--AbDb
吸音DGBDFABDFA
吸音ベンド音DbF#
F
Bb
A
Ab
Db--Ab--------
吹音ベンド音--------------EbGbBb
B
吹音CEGCEGCEGC
オーバーブロウEb----EbF#Bb--------

これがC Major Keyで奏でられる音のすべて、ということになります。
#肩こりましたね!