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こうやって頭を抱えながら、さっきまでしていた自分の行動について反省するのだけど、一向に改善されないのは頭が悪いからなのか。
素直に言えない。
なんとかしてわかってもらいたい気持ちと説明すると長くなるし、迷惑になるから止めようという思いが交錯してしまう。
自分でも訳の分からないことを言っているって十分理解しているはずなのに。
説明しようとすると分からないことがどんどん増えてしまって言葉につまる。
会話が成立しないと言うか、愚痴になってしまうというか。
もっと楽しい話をしたいと思うのに、不快感を持っているのがわかって、慌てて謝ってしまう。

謝るぐらいなら最初からしないほうがいいのに。

意識した事がなかった相手を、ある日突然好きにはなれない。
そう言われてずいぶんと時間が経ってしまった。今日も会社帰りに電話をしてしまう。
「おつかれ、今帰り。」
「そっか、俺はまだ仕事だけどどうする?」
「真っ直ぐ帰るよ。明日は、英会話だから。」
「じゃ、明日夜行くよ。」
あまりにも色気のない会話。
でも他の人が聞いたら、もう少し違うのかもしれない。

貴方と一緒にいたら、とても楽しいと思うの。
何気なく言ったのに、彼はとても困惑していた。
英会話の後、携帯のメールには「焼き肉!ごちそうだ!!」と書かれていた。
時計は九時半。
メールは八時半に入っていた。
彼はまだ待っている。
普通にテレビをみて帰りを待っている。

「おかえり。」
「ただいま。」
コートをかけてこたつに座る。
彼は冷蔵庫から肉を取り出してホットプレートに載せた。
「仕事帰りにデパートに寄ったんだよ、そしたら肉が半額だったんだ♪どうせ十時にしか帰ってこないから飯を作ってみようと思ってさ。」
肉のこげるいい匂いが部屋を包む。
ご飯・みそ汁・レタスをちぎって上にトマトを切ったサラダ。
「ありがとう。」
焼けたところから渡されてタレを付けて食べる。
「たまにはこういうのもいいよなぁ。」
彼はにっこりとこちらを見た。ただ、うなずいた。

意識した事がなかった相手を、ある日突然好きにはなれない。
気がついている。彼は好きではないのだ。
なのに、そばにいる。
電話をしなければ彼から電話はこない。
なのに、いつも次、会う約束をする。
約束がないと電話をしてしまう。

夜半過ぎ、彼を駅まで送るために外に出た。
東京でも郊外の為、快晴だと満天の夜空になる。寒い。
二人とも両手をコートに突っ込みふらふらしながら歩く。
「いつも送ってくれなくても、いいのに。」
彼がぽつりと、言った。
「帰りにレンタルビデオに行って新作借りてくるから、いいの。明日は休みだし、部屋片づけたらのんびりするわ。」
「ごめんな。」
そういうのに、そっぽを向いて歩き出す。
また長い沈黙。
苦痛ではないが、不思議。

改札で別れると、本当にレンタルビデオに行ってみた。
なのに書籍エリアで文庫を見て、雑誌エリアで旅行関係の本を買った。
ビデオは借りずじまい。

貴方と一緒にいたら、とても楽しいと思うの。
そうなって欲しいと思っていた。
だから言ったのに。
楽しくない訳じゃない。
なのに楽しくない。
傍にいられればそれで良くて、それ以上の関係は期待していない。
期待しない。
いつ離れていってもいい。
諦めている。

だから、恋ではないのかもしれない。

土曜日は寝坊をすると決めている。
昼過ぎに起きて掃除・洗濯等の家事をこなしたら、午後はのんびり過ごす。
最近は遊んでくれる友達も減った。
仕事か子育て。
自分は前者だけれど、そんなに息詰まってもいない。
友達のメールには忙しい忙しいと書いてあるけれど、何がそんなに忙しいのかわからない。
きっと会うのが面倒なだけ。
別に強要して会う理由もないから、疎遠になる。
日当たりのいいこの部屋は、冬でも昼間は暖房がいらないので気に入っている。
なんとなく外出を次の日に伸ばして、本を読む。
買ってきた旅行雑誌はフィレンツェ特集で、見開きでフィレンツェ大聖堂が載っていた。
抜けるような青空に壮大な装飾を施した大聖堂。
宗教だけではない訴える何かがある。
ぺらぺらめくりながら机を眺める。
中国茶器で煎れた烏龍茶が窓の光を受けて鼈甲のように差し込む。
あまりの眩しさに目を細めると、向こう側の携帯電話がふるえていた。

意識した事がなかった相手を、ある日突然好きにはなれない。
「大漁だよ!のんびりしているなら、帰りお裾分け持っていくけど、どう?」
メールには画像が添付されていた。
釣った魚と嬉しそうに笑う彼の姿。
なんでそんなに嬉しそうなのよ。
私といる時はそんな風に笑ってない。
「さばくの大変だからいらないです。ごめんなさい。」
行くのだったら誘ってくれたらいいのにとか、色々考え出すとどんどん不満ばかり溢れ出す。
今会ってもどうせ皮肉しか出てこない。
魚に嫉妬したところで仕方ない。
せっかくのんびりしていたのが台無しになったと、勝手に彼のせいにして怒っている自分が悲しくなった。

ふてくされて寝転がるとぽかぽかして、そのまま寝てしまった。

貴方と一緒にいたら、とても楽しいと思うの。
彼女にそう言われた頃は前の彼女と別れたばかりで、付き合うとかそういう事を考えたくなかった。
彼女に好かれている事はわかっている。
でも俺にはそれに答えられる資格がない。
彼女が思っているより何もかもが出来ていないと思うから。
拒絶する事は出来ない。
気がつけば、俺の大半を理解してくれている。
このまま、ずっと仲良くしてくれれば。
それでいい。
だからこそ、さっきまでしていた自分の行動について反省するのだけど、一向に改善されない。
俺の頭が悪いからなのか。
素直に言えない。
なんとかしてわかってもらいたい気持ちと説明すると長くなるし、迷惑になるから止めようという思いが交錯してしまう。
自分でも訳の分からないことを言っているって十分理解しているはずなのに。
説明しようとすると分からないことがどんどん増えてしまって言葉につまる。
会話が成立しないと言うか、愚痴になってしまうというか。
もっと楽しい話をしたいと思うのに、不快感を持っているのがわかって、慌てて謝ってしまう。
謝るぐらいなら最初からしないほうがいいのに。

謝られたメールを見てまた狼狽している自分が悲しい。彼女を何かで傷つけてしまったのだと感じる。

20040511 枯矢

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