=wait 007=
平日は毎日朝・晩とメールをするけれど、全く電話はくれなくなった。
そして何かしら理由をつけて、俺と会うのは拒んでいる。

それでも、俺は自分がしたかったように事が運んで満足していた。
別段彼女がいてもいなくても困らない生活。でもお互いにお互いを気にしている。
仕事も周りの異動が激しくなり、忙しくなった。
これぐらいの距離がちょうどいい。
会えなくても、彼女を大事だと思うし、彼女もそう思ってくれているはずだ。
三ヶ月経ってもメールはずっと続いていた。

昔彼女と出会ったイベントを主催した先輩と、久しぶりに会うことになった。
先輩はイベント好きなくせに公務員だ。ほぼ定時に仕事を終えて帰っている。
それならイベントを運営する時間もあると言うものだ。
「最近は、イベントしてないんですか?」
もつ煮込みを食べながら聞いてみた。
「合コンはしてるよ。さすがにあのぐらい大きいイベントはなかなかね。」
おだやかに話す。その寛容さにいつも驚く。
どうしてこんなにもこの人は人を癒すのだろうか。
「結婚するから、今度は仲人とかそう言う感じがやりたいなぁ。」
先輩はとても嬉しそうだった。
先輩は彼女と同じ年だから、男性が結婚するには多少早い方かも知れない。
「結婚ですか。」
嬉しそうだとは思うのに、俺はついはき捨てた言い方になった。
「まだ昔の彼女が忘れられないの?」
敏感な先輩はとても困った顔になった。
そのころころと変わる顔を見ているだけで苦笑する。
「忘れるも何も、今考えたって理不尽だし、納得できませんよ。」
「世の中そんなものだらけだけどなぁ。・・・彼女がまだ好きなの?」
「好きじゃないですよ、あんなわがまま。」
ビールを飲み干した。そう、わがままなんだ。
前の彼女も、彼女も。俺がどう思っているかなんて、知らないんだ。
俺が心配なんてしないひどい奴だとか思っているんだ。
「変わらないねぇ。」
先輩は苦笑したまま、一緒にビールを飲み干してくれた。
「でもねぇ、今のままだと・・・。」
先輩は言いながらも、空になったビールを指し、ピースして店員に追加した。
「自分に本当に逢った人が現れても、気がつかないかもしれないよ。」
雑音にかき消されそうな呟きだったのに、はっきり聞こえた。
先輩はただにっこりと笑っていた。
「そうですかねぇ〜。」
と、言いながら、新しくきたビールを一気に飲んだ。

それでも、俺は自分がしたかったように事が運んで満足していた。
別段彼女がいてもいなくても困らない生活。でもお互いにお互いを気にしている。

これぐらいの距離がちょうどいい。
会えなくても、彼女を大事だと思うし、彼女もそう思ってくれているはずだ。
半年経ってもメールはずっと続いていた。

20051204 枯矢

wait