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彼女には新しい彼がいた。

不思議とショックではなかった。なぜ、彼女は俺とのメールを止めなかったのだろうか・・・。

俺はあれ以来、メールを送っていない。
朝と晩、送るのが当たり前だったことを止めるのは苦痛だった。
毎日の時間がとても長いように感じた。

「あれ?彼女にメールしないんですか?」
会社の後輩と呑んでいた。
「え?なんで?」
「いつも、この時間になるとおもむろに携帯出して何かしてたから。先輩は彼女思いなんだなぁってみんなで話してたんですよ。」
気がつかなかった。自分ですら。
そして彼女が本当に努力して俺に付き合っていてくれたことがわかってしまった。
嫌がりもせず、俺に当たり障りのない返事をし続けてきた。
俺はどうしてそこまでさせていたのだろうか・・・。
「あぁ、ずっと前に別れているよ。彼女とは。」
「え?あ!すいません!!」
慌てる後輩を見ながら、携帯を見た。

彼女からメールがきていた。
【心配して家まで来てくれてありがとう。貴方も気をつけてね。】

そうか、俺は彼女に甘え続けていたんだ。いつまでも。
とうに終わっていたのに、俺は自分のことしか考えていなかった。
それなのに、彼女は変わらないメールをくれていた。
自分が変わったのに・・・。
今も同じように心配すらしてくれている・・・。

涙が出た。後輩が隣でうろたえている。
いつか彼女が外で泣いていたことがあったな。きっと同じような心境だったんだろう。恥ずかしいとはこれっぽっちも思わない。
俺はどうして、あの時何もしてやれなかったのか。

先輩が言ったように、失ったものは大きかった・・・のか。

だけど、それでも仕方ないと思える。
こんな俺じゃ、駄目なんだ。
彼女の幸せを願おう。きっと彼女は幸せになれる。

「悪かったな。」
「彼女なんてすぐ出来ますよ!あんまり落ち込まないでください!」
後輩はガンっと生の中ジョッキを差し出した。
「いや、悲しくて泣いた訳じゃないんだ。」
「またまた〜、そんな強がらなくてもいいんですよ!」
後輩はグっとグラスを空けた。
「彼女の優しさがいまさらわかったんだよ。もう遅いけどな。」
俺も合わせて飲み干した。

20051204 枯矢

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