GEKIYASU Reading Irregulars


激安読書隊への前夜
雑感
すべてがFになる/森博嗣(100円)
冷たい密室と博士たち/森博嗣(100円)
恋恋蓮歩の演習/森博嗣(125円)
雪密室/法月倫太郎(100円)
一の悲劇/法月倫太郎(100円)
マジックミラー/有栖川有栖(150円)


□激安読書隊への前夜
もともと、古本屋に限らず書店巡りは大好きだ。
気付くと、1時間以上居座っていたなどということも珍しくないし、そこから別の書店を
ハシゴするようなことも多々ある。古本屋の場合はそれが顕著。
別に、立ち読みをしている訳ではない。
1〜2冊、ちょっと欲しい本を見つけたら、ついでに買っておこうと思う本を探しているうち、
時間ばかりが経過するという訳だ。

社会人になって、東京に出てきて、何が夢の東京かってそれはもう、馬場や神田の古書街に
行き放題という点だった。上京して1年くらいは、土曜に暇があれば、古本屋巡りばかりを
していたような気がする。

それが、生活の変化によって、次第に通う回数が減っていった。
一番の理由は、学生時代とは比べ物にならない大金を手にしたということ。
大金ったって月に数万円程度なのだが、これが全額小遣いとして手元に残る訳だから大きい。
要するに、文庫程度なら新刊で買えるだけの経済力を獲得したので、もう、
半額で買うために何件もの古本屋を探し歩く必要がなくなったという訳だ。
そのため、古本屋に行く目的は、主に絶版書籍−−それも、手の届く範囲の価格のもの−−を
探すというものに変わった。
そうなると、対象は途端に限られてくる。
ない店にはそうそう入荷することもないし、あっても3000円とかの「法外な」値段が
ついている店では、何度通おうとも価格が下がったりはしない。
もう一つの理由は、東京の住宅事情。
部屋が狭い。
私は本を捨てられない人間である。
雑誌でさえも、なかなか捨てられない。ファミ通は捨てられても、ログインはつい最近まで
ずっと捨てられずに残っていたほどだ(大学卒業以来、1冊も買っていないにも関わらず!)。
だから、最初は片付いていたはずの部屋も、本棚が埋まり、ベッドの下が埋まり、
クローゼットの棚が埋まり、遂には床を覆い始めるに至って、どうしても、
好き放題本を買うという訳にはいかなくなったのだ。
そんな訳で、いつしか、私はすっかり古本屋に行かない人間になっていった。

ところが、そうして何年も経った現在、ふと気付くと、私はすっかり本を読まなくなっていた。
読書量が大きく減ったという訳ではない。
新しいジャンルの開拓ということをしなくなっていたのだ。
気に入った作家の新刊は、無条件で買う。宮城谷昌光や東野圭吾などの売れっ子(?)が
混じっているので、書店に行く頻度が週に一度程度ならば、買う本には事欠かない。
そしてそれに応じて、未読の本も増えた。
馴染んだ作家たちの本である、嫌でも中身の想像が出来てしまう。そして、買っただけで、
なんだか読んだ気になったりする。

そんな中で、大学の、SF研の先輩が、作家デビューを果たした。
それも、ジャンルは「新本格」。知らないうちに成立していた謎なジャンルである。
、、、イヤ、知らないというと嘘になるが、島田荘司が言い出した、
なんだか推理小説界の派閥のようなものだと思っていた。だから、無視していた。
それが、この先輩のデビューでちょっと見方が変わってくる。
もしかしたら、面白いのかも。

何故って、そのデビュー作がとにかく面白かった。
読書通の方ならご存じだろうか、「ハサミ男」。
デビューより遥か昔の学生時代から、彼の文章(主に評論だが)は内外で非常に高く
評価されていたし、そのナマ原稿に清書(当時の我々のファンジンは手書き/コピーが主流で、
読みやすく整理する過程で、編集が統一規格のペンによる清書を行っていた)という形で
触れていた我々は、その凄さを直に見知っていたと言って良い。
初めて彼の原稿を清書した時のことは、今でも覚えている。デビッド・ブリン
「スタータイドライジング」のレビューだった。
、、、ショックだった。
それまでは結構、自分にも文才があるのではないかと自惚れていた私だったが、
それが粉々に打ち砕かれる気がした。天才とはこういう人のことを言うのではないか、
そんな風に思った。清書の途中で、大学の購買部に買いに走った。
本文の方が、レビューの100倍もつまらなかった。
彼の文章がどれほどの評価を得ているか知ったのは、実はその後のことだった。

そうでありながらも、最初、他の先輩から「ハサミ男」を見せられた時、
その作者が彼だとは思いつかなかった。
彼が小説を書くなんて、全然思わなかったからだ。しかも、推理小説!?
おっかなびっくり読み始めて、すぐに夢中になった。
うん、面白い! それも、並の面白さじゃないぞ、これは。
あっと言う間に引き込まれて、止らなくなった。
騙されまいぞと身構えていた筈なのに、見事に騙された。
確かに推理小説はあまり読む方ではないのだが、それにしても実に綺麗に騙されたものだ。
この本のことを教えてくれた先輩が、
これが新本格というジャンルに属するものだということも教えてくれた。
新本格に初めて興味を持ったのは、その時だったと思う。

実際に新本格らしきものを読むのはそれからずっと後になる。
休暇で帰省の折りに、何気に寄った地元のBOOKOFFの100円の棚に、
その本を見つけたからだ。
「すべてがFになる」森博嗣、講談社リベルズ。
これは、知っている。たぶん新本格だ。
知り合いで新本格好きの男子高校生が、部の顧問の数学教師に薦めたと言っていた本だ。
会社のウェブ上の雑談で、社内の何人かがこの作者のシリーズを話題にしているのも何度か
目にしている。
本を手にとってみる。ラッキー、デビュー作だ。これは読むしかない。

さて、「ハサミ男」ほどではなかったが、なるほど結構面白い。
100円にしては良い買い物であった。
これならもっと読んでもいいかな、とも思った。

そして東京に戻ってきたものだから、残った休暇の日々は、
東京中のBOOKOFF巡りに費やされることとなった。
そう、私の池袋の部屋は、2年前の引っ越しによって、2DKにパワーアップしている。
しかもなお悪いことに、引っ越しの折りにかなりの書籍を処分したため、
新しく壁一面に配した本棚には、本以外のものさえ置いてある。

このように、精神的にも物理的にも、受入体勢は整っていた訳だ。


□雑感
岐阜と東京のBOOKOFFを都合5件回って、定価でも買うつもりだった「幻想の犬たち」
「画狂人ラプソディ」以外、全て100円以下の文庫・新書で30冊ほど購入した。
それから約2箇月。読了したのは3分の2程度だが、「前夜」で上げたように、今回の買い物は
予め傾向を決めての買い物であったこともあり、こりゃダメだ、と思うようなものには出会っていない。

しかしながら、それだけに探すのもそれほど簡単ではなかった。
例えば、今回の探し物の目玉、森博嗣。
結構売れているのか寡作なのか、30円の棚では遂に見つからず。発見できたのは、
文庫で100円が1冊、新書で100円が2冊きり。
対して、島田荘司あたりだと、30円や2冊100円のコーナーでもちらほら、
100円の新書コーナーだとそれなりの数(と言っても数冊だが)が並ぶ。
同じ年代の岡嶋二人は、新書での仕事が少なかった関係か、文庫で1〜2冊、それも大抵デビュー作の
「焦茶色のパステル」。
京極夏彦もその厚さゆえ目立ちやすくて買われてしまうのか、あるいは置く場所の問題があるのか、
ない訳ではないのだが数は少ない。たまたま30円で「鉄鼠の檻」(ボロボロ)買って、
中身はまあアレだけど、大変満足、、、分量的と言うか費用対効果的に。閑話休題。

こうやって値段と作家に注目していると、しなくてもだろうが、なかなか面白い傾向が見えてくる。
100円棚、それ以下棚(ワゴン)に並びやすい作家。
多作なのはもちろん、時事ネタ系も多い。中心はミステリー。日本の出版概況が見えるような気がする。
赤川次郎、西村京太郎、森村誠一、和久峻三。好きだったら1万円で1年分くらい買えそうだ。
いや、好きだったら持っているようなものばかりかな?
鈴木光司はリングとらせんとバースデイで、ざっと100冊、文庫棚2段くらい独占してます(笑)。
さすが角川。
森詠というのはどんな作家だろう。新書も文庫も結構出てるけど知らない人だ。
北朝鮮が攻めてくる? ミリタリー作家なのか?
群ようこも文庫棚に沢山並んでるけど、知らないなあ。文芸のひと? エッセイスト?
見えてきたのは、偏った自分の読書傾向だったりして、、、。

まあいいや、ここいらで良く見る名前は要チェック!
だって新品で買わなくてもいいってことだもんね。
てな訳で、収穫の方、行ってみましょうか!


□すべてがFになる/森博嗣
□冷たい密室と博士たち/森博嗣
□恋恋蓮歩の演習/森博嗣

 「すべてがFになる」については、簡単ではありますが、前夜で書いた通りです。タイトルは
完全にネタバレじゃん、という感想を持つのは、コンピュータを使ってる身ゆえでしょうか?
ま、いっか。
 運の良いことに、デビュー作「すべてがFになる」の次に入手したのは、偶然にもシリーズ
2作目「冷たい密室と博士たち」でありました。後味悪〜い話でしたが、消去法できちんと
犯人が判る点はなかなか出来るこっちゃないと思います、が、少しヒロインと主人公のラブコメが
鼻に付きはじめて来ました。この作品に関しては、後味悪さを和ませようとしたのかしらん? 
次はこのシリーズと違う話を探そうと思います。ただ、「面白ければ良いんだ。面白ければ、
無駄遣いではない」、この一言で満足できる人も案外多いのではないでしょうか
(同様の主張は事件の後日談としても語られており、これで事件の伏線になってでもいたら、
猛烈に感動してしまったんですけど)。
 てことで、次は「恋恋蓮歩の演習」。ってまあ、あえてこれを選んだって程ではないんですけどね。
人気作家らしく、そうそう安売りはしていません。で、この作品ですが、書かれた時期がずいぶん後
だったせいか、なんだか良く判らない話でした。本格ものと読むことも出来なくはないのですが、
それにしては「解決されるべき」事件が起こるの遅すぎ。ひたすら状況説明だかキャラ紹介だか、
そんなのが延々と続いて、倒叙なんじゃないかと思ったほどです。読み終えてみて、実際のところ、
その延々と続いた部分こそがこの話のメインだったのに気付きました。つまり、キャラ萌え小説
だったと。
 なるほど、カバーには先の2作が「S&Mシリーズ」、そしてこれが「Vシリーズ」として
分類されています。犀川&萌絵シリーズと、Vは、、、? ま、いっか(こればっか)。
どうりで、やたらと個性的な登場人物ががんがん出てくる訳だ。事件に全然関係ない女装青年の
描写なんかが延々と続く訳だ。
 とりあえず次は、このVシリーズの最初の話「黒猫の三角」でも探してみます。

すべてがFになる
著者:森博嗣
刊行:講談社/講談社ノベルズ 880円(本体854円)
買値:100円

冷たい密室と博士たち
著者:森博嗣
刊行:講談社/講談社ノベルズ 800円(本体777円)
買値:100円

恋恋蓮歩の演習
著者:森博嗣
刊行:講談社/講談社ノベルズ (本体840円)
買値:125円(250円を半額で)


□雪密室/法月倫太郎
□一の悲劇/法月倫太郎

 そうそう毎回幸運は味方してくれないようで、法月倫太郎も読むのは初めてですが、発表順に
従った入手は出来ませんでした。それでも、2冊とも(おそらく代表作と目される)名探偵
法月倫太郎ものだったってことで、悪くはなかった気がします。面白かったし。土曜ワイド劇場
向きって気がしましたが、如何でしょう?
 一の悲劇の方ですが、主人公は非常に良く書きこまれていて、「人が書けない」と揶揄される
本格ものへのアンチテーゼか(別に私は気にしたことないですが)? などと思いました。
だけど、対照的にそれ以外の人間が全く見えてこなくて、この話に関しては逆にそっちの方が
目立っていたような。たまたま少し前に読んだせいかも知れませんが、この話、構成とかが
島田荘司「異邦の騎士」にちょっと似てますね。もうちょっと読んでみたいと思う一方、
本格系はそろそろいいや、という気にさせる2作でありました。いや、もうちょっと読んでみようと
思ってはいますが。

雪密室
著者:法月倫太郎
刊行:講談社/講談社文庫 440円(本体427円)
買値:100円

一の悲劇
著者:法月倫太郎
刊行:祥伝社/ノンノベルズ 750円(本体728円)
買値:100円


□マジックミラー/有栖川有栖

 ここまでくると、もはや、動機とか真実とか、なんかどうでもいいような気がしてきます。
私が作者です、さてあなたはこの謎を解けますか? そう言われているような。だとすると、、
一体何のための小説なのか、何のための主人公なのか。事件が人か、人が事件か(ちょっと違う)。
でも、事件と双子の容疑者、首と手首のない死体と消えた容疑者、などと言われると、それなりに
推理小説の類を読んでいる人間としては、先入観で本末転倒ではないのか、などと思いこんで
しまう訳です。、、、もっとも、読んでいるのは「それなり」なので、もっと読んでいる人だと、
そういう余計な先入観なしに、作者のしかけた謎と戯れたりできるものなのでしょうか?
 代表作は「双頭の悪魔」だそうなので、ちょっと古本屋回ってみようと思います。こうまでくると、
一体なんのための読書なのか、疑問も生じてきますね。読書のための激安探しか、激安探しのための
読書か。お後がよろしいようで。

マジックミラー
著者:有栖川有栖
刊行:講談社/講談社文庫 (本体590円)
買値:300円を半額セールで