NETABARE REVIEW


ページタイトルの通り、このページで扱う書籍に関しては、
基本的にネタバレ御免で書かせて頂いております。
未読のものは、くれぐれもご注意下さい。

R.P.G/宮部みゆき
紫の砂漠/松村栄子
詩人の夢/松村栄子
画狂人ラプソディ/森雅裕
BASTARD!! 黒い虹I/ベニー松山
鏡の中は日曜日/殊能将之
薔薇の荘園/トマス・バーネット・スワン
ゴーレム100/アルフレッド・ベスター
























































□R.P.G/宮部みゆき

 私は、好きな本は帯も返しも読まずに読み始めます。もちろん、解説も。
 そんな訳で、ネット上の擬似家族云々というギミックすら、気付いたのは4分の1近く読み進んでから。 気付いたどころか、明記されてはじめて判ったような次第です。同時に、ここに至ってようやく タイトルの意味にも気付きました。
 本屋で手に取ったときには、宮部さんは結構なゲーマーでもあるので(ま、作家には多いんですが)、 何かそういう、もっと軽いものを想像して、期待していました。ところが、そんな甘いもんじゃない。 硬派で、正統派で、舞台には何のイカサマもなくて、それでいて新しい。各章の冒頭にメールのログを 持ってきて「当日」までを再編成していく、それを目立たせることなくごく当たり前のことのように こなしていくあたり、さすが構成の魔女(勝手に付けた)。これは凄いかも、なんだか、そんな予感で 読み進めながらぞくぞくしました。
 それが頂点に来るのが、「おとり捜査」という一言で犯人が判るところ。何気ないようで、その実、 読者が気付くように慎重に用意された一言で、これだけでこの本買って正解だった、そう思わせるに 足る一言だと言えましょう。う〜ん、上手い。痺れるなあ。
 最終章のメールログは、象徴的で、残酷で、泣きそうになりました。最終章自体はどうということも なくて、「実はお芝居でした」は、まあ興ざめっちゃ興ざめだけど、現実とのすり合わせを重視する宮部 みゆき流ってことで目をつぶります(笑)。点数は10てんまんてんの9てん(ソレはいいって)。

R.P.G
著者:宮部みゆき
刊行:集英社/集英社文庫 500円(本体476円)
買値:500円

□紫の砂漠/松村栄子

 ちゅうか、闇の左手?

紫の砂漠
著者:松村栄子
刊行:ハルキ文庫(本体820円)
買値:820円+税

□詩人の夢/松村栄子

 先の「僕はかぐや姫」「至高聖所」、あるいは「セラヴィ」などとは趣の大きく異なったシリーズで、 正直、少し戸惑いました(「詩人の夢」は、「紫の砂漠」の続編)。読み終えてみれば至って素直な ファンタジーで、2冊読み終えれば、何となく優しい気持ちになれる良い作品です。
 「紫の砂漠」のレビューでは、ちょっとお笑いに走って「闇の左手」?という一言で済ませて しまいましたが、もちろんテーマは相当に違います。いや、そんなでもないかな?(笑) 少なくとも 一部は共通してますね。性別を超えた愛とは? というような部分が。女傑ル=グインはそれに留まらず、 始終発情している人類のライフサイクル(ちゅうか、たぶん主に男性のだろうけど)が戦争を引き起こす 重大な原因なんだ、という仮説を、超越人種ハイン人の惑星規模の実験の結果から示して見せるという 力技で披露しています。が、そのエッセイ集「夜の言葉」などから想像するに、案外、この「紫の砂漠」 「詩人の夢」みたいな話が書きたかったんじゃないかなあ、などと思ってしまいます。いや、やっぱ 邪推もいいところかな? 語れるほどル=グインのこと知ってる訳じゃないし。閑話休題。
 ところで、宮部みゆき「龍は眠る」のコメントでも触れましたが、 なんでSF使うんだろ? 「龍は眠る」では、超能力、それもテレポートなどの結構現実離れした類。そしてこの2作では、 遥か未来、地球の殖民惑星での出来事、てところまでは設定上必要だったとして、ライトセーバーや光線銃、 クローンなんかが、馬で旅しているような技術水準の社会でポンポン生産できてしまうというのは、 例えファンタジーの世界だとしても、やっぱり違和感があります。SFの方が一般小説より難しいとは決して 思わないけれど、そのような道具仕立てに説得力を与えるにはSFに特化した技術というものが必要で、 彼女らのそれはまだ水準に届いていないように思えるのです。それは、本人も当然自覚があるものと思うのですが、 そうではないのかな? この一部分のみにおいて、読んでいてどうしても安っぽさを拭い切れなかったのですが。
 ケチはつけましたが、この2冊、私はとても好きです。

詩人の夢
著者:松村栄子
刊行:ハルキ文庫(本体840円)
買値:840円+税

□画狂人ラプソディ/森雅裕

 森雅裕。
 今どきの日本で、乱歩賞作家でありながら気を付けていても簡単に買い逃し、気付いたときには 絶版になっている、そういう作品を連発する作家。しかも寡作。

 さて、この作品は、その森雅裕の初期の(と言っても85年だが)長編。乱歩賞受賞作 「モーツァルトは子守歌を歌わない」と同時期に書かれ、タッチの差でデビュー作となった。 横溝正史賞の佳作。
 以上、この本の「幻コレクション」復刊記念あとがきで初めて知ったこと。今の今まで、 「モーツァルト、、、」がデビュー作だと思い込んでました。長い付き合いが聞いて呆れる。 でも、そのくらいスポットライトの当たらない、幽霊のような作家だったのです。
 そして、あとがきはこのように続きます。初期の作品なので、出来は悪いが勘弁してくれよ、と。

 そう。出来は悪い。かなり悪い。
 読み始めて間もなく、そして読んでいる途中も、読み終えた直後でさえそう思いました。 これは素人の作品(それも、おそらく未完成)なのではないかと。
 実際、素人時代の作品なのでその通りなのですが、それにしても荒っぽい作品です。 まず、話のベクトルがところどころで違う向きを向いていて、読み手に焦点を与えて いないこと。様々なトリックを駆使している、結構本格的な推理小説にも関わらず そういう印象が薄いのは、最初から最後まで、一本筋が通っていないことが原因でしょう。 結果、読者は何を追えばいいのか分からなくなり、流されるままに頁を進めるしか なくなる、能動的な読書が出来なくなる。これは、本格指向の推理小説としては 痛いところでしょう。、、、他にも、真犯人は探偵役の相棒だし、謎解きのメインであった 「葛飾北斎の隠し財宝」は、単に主人公をアリバイ工作に利用するためだけという苦しいオチ、 秘密を持っている主人公の元カノや、殺される教授・講師たちの描写不足による理不尽感。 そもそも、メイントリックの暗号も無理があり過ぎ。もー、書き出したらキリがないっ!
 だけど。
 その全てを打ち消すほど、主人公とその脇を固める二人は魅力的です。それが書きたくて、 ただそのためだけに、この作品を書いたのではないかと思われるほどに。そしてただそのことに 触れたいがために、私もこのねたばれレビューを書いてるように思います。
 不器用な生き方、不器用な恋愛、だけど頑なに自分の意志を貫くその孤独は、あまりにも 美しく、せつない。
 森雅裕のファンは、だからこそ、この佳作な作家から目が離せないのではないでしょうか。

画狂人ラプソディ
著者:森雅裕
刊行:KKベストセラーズ/森雅裕幻コレクション2(本体1000円)
買値:500円

□BASTARD!! 黒い虹I/ベニー松山

 書店で手に取って。

原作&イラスト
萩原一至
文/ベニー松山

 ?  幾らなんでもそりゃないだろう。それにこの扱いの差は???
 そう思って読み始めたものの、内容はそれも無理からぬもので、正直、残念でした。 それほどまでに萩原一至の影響力は大きいのか、集英社の編集の関与は大きいのか、とにかく、 そこにベニー氏の姿は見えず、ただコミックスそのままに、どうしようもなく頭の悪い、 しかし強くて無敵な主人公をただひたすらに賞賛する描写で話は進み、 そんなに凄い主人公があっと驚く方法で倒される、まあ、それだけの話でした。 続編で、もっとあっと驚く方法で逆襲するものと思われますが、実はあんまり驚いてもいないんですよね。 そういう訳で、失意の内に筆を置きます。

 ちゅうか、ベニー、しゃきっとせい!
 いや、仕事だし、いろいろ難しいのは判るんですけどね。こんなの書いて満足してちゃダメだ!  あなたは、仮にもゲーム小説の先駆者なんだから。

BASTARD!! 黒い虹I
原作:&イラスト 萩原一至
文 :ベニー松山
刊行:集英社/集英社スーパーダッシュ文庫(本体495円)
買値:495円+税

□鏡の中は日曜日/殊能将之

註:傑作です。未読の人は、まず読んでから。でないと後悔しますよ!

……とか言いながら発売翌日にねたばれレビュー書くやつ〜>私や



 「ハサミ男」に匹敵する緻密な罠が読者を待ち構え、「美濃牛」に勝るとも劣らぬ推理を名探偵は展開し、 そしてその推理が的を外すこと「黒い仏」の如し。刊行されている4作品全てで読者を愉しませてくれる怪作、 そう言ったらファン(あるいは、まだここはばれていないと思うけど作者)は怒るでしょうか?
 もしかしてこの作品を批判する人間がいるとしたら(ま、いるでしょうけど)、きっとこの作品自体が 「ハサミ男」の焼きなおしだ、などと言うかも知れません。実際、仕掛けの中心であった叙述トリックが同じように、 ほぼそのままに再現されているためそのように思えるのですが、それこそが作者殊能将之の狙いのような気もします。 というのも、それが作中劇ならぬ作中小説の仕掛けであり、過去・現在、という対比の中でそのメタフィクションを 読者が勝手に真実と取り違えるように誘導していくところが、この作品のいわばメイントリックであるように 思えるからです。 いわば、一種のセルフパロディにして、そこに一番の罠が仕掛けられているという訳で、 これまでの作品を読んでいる読者に対するサービスというか遊びというか。 そう考えると、「黒い仏」の正統的後継作品と言ってもあながち間違いではないかも知れません。 もっとも、遊びの方向がアンチ名探偵に特化してしまった「黒い仏」 (これは人気でない訳ですよね、名探偵大好きっ子のファンに喧嘩売ってるようなものですから) と比較すれば、倒叙、メタフィクション、叙述トリックという、ミステリファンばかりかSFファンをも魅了する ネタをこれでもかと注ぎ込んだ本作品は、面白くて当然というか、まあ、売れるだろうなあ(笑)。
 と、私に分かる範囲で解読してみましたが、まだまだこんなもんじゃないでしょう。これ以上は、 じっくり再読してから、また考えてみようと思います。

 最後に、とにかく最高に面白い話で、私も読み始めると最後まで止まりませんでした。 先の3作はどれも面白かったけど、これだけ夢中で読んだのは最初の「ハサミ男」以来です。 殊能作品を初めて読む読者の方には、こんな御託とは関係なく楽しめたことと思います(でしょ?)ので、 次は是非「ハサミ男」、そして発表順に「美濃牛」「黒い仏」と読まれることをお薦めします。

鏡の中は日曜日
著者:殊能将之
刊行:講談社/講談社ノベルズ(本体820円)
買値:820円+税

□薔薇の荘園/トマス・バーネット・スワン

 去年のハヤカワ復刊フェアで購入しましたが、これは面白い!  中身はファンタジーなんですが(初期のハヤカワ文庫は、SFのカテゴリーでFTやJAなども刊行している)、 出来の良い神話さながらに楽しく読めました。精霊や神々が当たり前に出てくる世界でありながら、 淡々と歴史上の事実を語っているかのような描写や語り口が、とにかく新鮮です。 題材もいい。時間も場所もてんでばらばらでありながら、現実の中に溶け込み、 根を下ろしたエピソードを集めてきたといった風情で、 御伽噺に満足しなくなった子供に読んで聞かせたい、そんな気になります。 イヤ、子供に読ませるには勿体無い童話、かな。 個人的に神話・伝承の類は大好きなので、これは本当に得した! と思う一冊でした。
 以下、中編集なので個別にコメントします。

「火の鳥はどこに」−−<紀元前八世紀 ローマ>−−
 題材としては珍しい、ローマ建国神話のファンタジー。というか、こういう、歴史と絡めたタイプの ファンタジーってあんまり見ませんよね。紹介されていないだけなのでしょうか?  むしろ、日本の神話の方が元来このタイプの話は多いように思うのですが、 日本の場合は皇室関係のタブーが多くて、正直、小説という域には達していませんから‥‥。 偉くて超立派なセンセイ方に期待しても仕方ないので、 コミックス(それも少女マンガ系)辺りに期待をしたいところなんですが。 山岸涼子とかに描いて欲しいな‥‥って、渡瀬悠宇とかだったら読まないと思いますけど。 >超わがまま 閑話休題。
 ローマ建国の話などは題材的にいかにも面白そうなんですが、ファンタジー小説として 本格的に扱われているのを見たのはこれが初めてです。 これは、その前のギリシャ神話群の出来がそれ以上に魅力的なせいであまり戯曲で取り上げられることもなくて、 結果、それらに触発された小説なんかが少ないのかも知れませんね。

「ヴァシチ」−−<紀元前五世紀 ペルシャ>−−
 これも題材として珍しい、ペルシャ神話ファンタジー。 と言っても、旧約聖書「エステル記」に想を得ていると思われるので、 途中までの話の筋には見覚えのある人もいるかも。これにギリシャ神話やゾロアスター教を絡めて、 ペルシャ王クセルクセス(この名も「エステル記」で有名ですが)の宮廷治療師イアニスコスを主人公に、 王妃ヴァシチと幽鬼たちの話が語られ、ラストは「エステル記」へと繋がっていきます。 人間のようで人間でない、独特なメンタリティの幽鬼の子供たちが怖くてかわいくて、お薦めです。
 先の「火の鳥はどこに」もそうなんですが、これらの題材はヒロイックファンタジーとして 仕立てれば結構売れるんだろうなあ、などと思うのですが(すなわちゲームのネタにも適してたりするのですが)、 それを愛の、それも生命への愛の物語として組上げているところが、スワンのセンスの良さが伺えます。

「薔薇の荘園」−−<一三世紀 イギリス>−−
 十字軍の時代の、イギリスの田舎を舞台にしたファンタジー。マンドレイクとのチェンジリング、 という題材を少年少女3人組の冒険に絡ませて、 「誰がマンドレイクか?」 という一種のミステリー仕立てにまとめあげています。 表題作なんですが、個人的な感想としてはちょっと出来が良すぎな感じです。 普通に小説として楽しめてしまい、神話や伝承っぽい素朴さに欠けているところが物足りないというか。 それでも、生活の中に溶け込んでいる神話(ここではマンドレイク伝承)、という味は健在です。 長編化もされているとのことですし、むしろ当たり前の小説として‥‥つまり、一種の神話としてではなく‥‥ 読んでみたい気もします。

 ネタ的に、という部分を別にしても(さりげなくヨコシマな読書)「火の鳥はどこに」が一番詩情豊かな秀作であったように思います。「ヴァシチ」の異国情緒もいい。 「薔薇の荘園」は、むしろこの後日談が気になるところで、長編ではその辺りも語られていたりするのでしょうか。 とにかく、現在入手可能なのがこれ一冊きり、古本を含めても3冊というのが残念な作家です。 かなり私の仕事的興味にも近いことですし、そのうち amazon.com で取り寄せてみようかと思っています。 読みやすいといいんですが。

薔薇の荘園
著者:トマス・バーネット・スワン
訳者:風見潤
刊行:早川書房/ハヤカワ文庫SF(本体660円)
買値:660円+税

□ゴーレム100

 帯からして挑発的です。

 ベスターの<最狂>長編SF!

 だけど、この帯はトラップでもあります。作者ではなく、出版社、あるいは紹介者たちによって、 この作品を生まれながらの傑作(か、さもなくばとんでもない駄作か)となるべく仕掛けられた。 それはすなわち、たとえ駄作と呼ばれようとも、凡作とは呼ばれたくない、 呼ばせるものかという意気込みとも取れましょうか‥‥。

 さんざん煽られて読み始めた読者は、むしろ拍子抜けするかも知れません。というか私がそうでした。 前作「コンピュータ・コネクション」のような、 グロテスクで理解不能な近未来像をいきなりかまされることを予期してきたところ、 確かに同じような近未来。だけど、それはむしろ「分解された男」のように、淡々と事実が語られついで行くことで、 世界観に圧倒されることもなく、良く出来た推理小説のように分かり易く筋を追うことが出来ます。


ゴーレム100
著者:アルフレッド・ベスター
訳者:渡辺佐智江
刊行:国書刊行会/未来の文学II(本体2500円)
買値:2500円+税