〜功罪〜

なんの因果か、外人さんと一緒に仕事をする機会がありました。
 外人さんに指示をもらってとあるものを作っていく作業なんですが・・・まぁ詳しくは訳あって語れないので省略します。
 その時に一緒に作業をしたのがD・Z(仮称)でした。
 彼はバリバリのアメリカ人で、こちらに英語を解する人間がいない事を良い事に、言葉の端々で俗語(スラング)を発するナイスガイでした。
 いかに英語を理解できないおいら達といえども、「Fuck」だ「Shit」だといった有名な単語くらいは知ってます。
 彼がそういった低俗な単語を発する度に、通訳のお姉さんが言葉を詰まらせるのがとても愉快でなりませんでした。

 ある日、散々作り直しを命じられ続けていた作品の一部が完成しました。
 それを目にしたD・Z(仮称)は大騒ぎです。
「Shit Beautiful!」
 を連呼しています。
 動きから察するに、出来上がりをけなしている訳ではなさそうです。
 とするならば、直訳はこうなるのでしょう。
『クソッなんて美しいんだ!』
 お〜、誉められてるんじゃん。
 一向にD・Zの言葉を訳してくれない通訳さん(女性)に耐えかねて、自分なりの解釈をするおいら達。
 そんなおいら達の内心を知ってか知らずか、D・Z(仮称)がカタコトの日本語を口にしました。
「Oh・・・キレイ!」
 どうやらおいら達の解釈に間違いは無かったようです。
 みんなで素直に喜びあいました。
 そこでD・Z(仮称)が通訳さん(女性)と何かを話し始めました。
 話し振りと、その後の流れから判断するに、こんな感じだったのではないかと思います。
「Beautifulはキレイ。じゃあShitは日本語でどう言うんだ?」
 素敵過ぎです。
なんてお茶目な質問でしょう。
 通訳さん(女性)困ってます。(笑)
 しばらく黙ってから、苦しそうに通訳さん(女性)が口にした言葉は・・・
「うんち」でした。
 その訳はこの場合
間違っていると思います!
 しかし、そんな事はわかる筈もないD・Z(仮称)、おいら達のために覚えたばかりの日本語を披露してくれます。
「Oh! ウンチ・キレイ!」
 大仰に、感動を表すジェスチャーまで交えてます。
「ウンチ・キレーイ!」
 ご丁寧に、おいら達一人一人に握手を求めるD・Z(仮称)。
 ひたすら爆笑する通訳さん(仮称)!
 必死に笑いの衝動から逃げ回るおいら達。
 そして訪れる我慢の臨界点!
 ついに、仲間の一人が衝動に耐えかねて口走ってしましました。
「うんちきれーぃ!(爆笑)
 誰もがこの瞬間を待っていました。
 全員で肩を組んで、爆笑しながら絶叫です。
「うんちきれーぃ!!」
「うんちキレイィ!」
 もはや訳がわかりません・・・
 
 そうしてD・Z(仮称)は、誰にも日本語の誤りを教えてもらえぬままおいら達の前を去っていきました。
 そして取り残されたおいら達は結論します。
“あの通訳さん(女性)は確信犯だ”
 今でも、D・Z(仮称)は信じていることでしょう。
 『Shit』は日本語で言うと『うんち』であると。
 そうです。決して間違っちゃいません。
 通訳さん(女性)は、嘘は教えていないのですから。
 でもですね、
『Shit Beautiful』は『うんちキレイ』ではありません。
 果たして誰が一番いけなかったのでしょう?
 「Shit Beautifulは日本語で言うとなんていうんだ?」
 と質問しなかった、D・Z(仮称)がきっといけなかったのです。
 ちゃんとそう聞いていれば、通訳さん(女性)も「うんちキレイ」とは答えなかったでしょう・・・。
 
 
 しかし---。