拾い物
こんな幸運があるのだろうか。 男は道の真ん中に落ちているものを見ながらそう思った。 そこに落ちているもの。それは見るからに中身がぎっしりと詰まっているいかにも高級な財布であった。 周りに人目が無いことを確認しながら男はそれを拾う。 最初はゆっくり。その後に一気に走り出しながら男は自分の家へと帰った。 男はどきどきしながら財布を広げる。 ある。 いち、に、さん……。 男はじっくりと数えながらその札束を数えた。なんと、200枚もの一万円札が入っているではないか。 あまりの嬉しさに男は飛び跳ねたが、すぐにはたとその動きが止まった。 少しばかりのお金なら単純に幸運に拾ったと素直に喜べようものだ。しかし、これはちょっと多すぎる。どう考えても警察沙汰ではないか。 実際には量の大小関わらず警察沙汰なのだがここではあえて問うまい。 男はこれをどうすべきかを考えた。 このまま知らんふりしたとしても恐らく誰にもわかるまい。しかし、このお金を使った時に、近所に何故あんなにお金を使っているのかと疑問を持たれた時にどう言い訳すれば良いのだろう。 男はこれだけのお金を冷静に使う自信が無かった。 ならば、警察に届け出るというのはどうだろう。 これならば少なくとも20万の大金は手に入る上に、警察や持ち主にも感謝される上に堂々とお金を使うことができる。上手く行けば持ち主が現れずに丸ごと手に入るかもしれない。 良い事尽くめではないか。おまけに近所に対して名声まで得られるではないか。 男はそう考え警察に財布を持っていくことにした。 そして、警察に向かう途中、男はものすごいものに出くわした。 人通りの無い道の真ん中。そこに落ちていたのだ。 またもや高級そうな財布である。 男は唾をごくりと飲みながら、慎重に財布を拾い上げた。 今度はその場で財布の中身を確かめる。 200万。 またしても男は大量のお金を手にしてしまったのだ。 男は狼狽した。 このまま2つの財布を届けたとしたら相手はどんな反応をするだろうか。間違い無く怪しまれるではあろう。200万の入った財布を偶然2つ見つけました。と言って誰が信じてくれるだろうか。第一、一つならともかく二つもの大金を拾ったなどと知られれば、近所からは賞賛では無く、嫉妬の目で見られるに違いない。 男はその視線に耐えられる自信が無かった。 仕方あるまい。 男はそう考えながらくるりときびすを返し、再び家路へと帰った。 自宅に戻ると男は2つの財布を戸棚の奥にしまった。 取り敢えず、使わなければいいのだ。そうすれば近所から変な目で見られることもあるまい。 男は懸命にその存在を忘れる事に努めた。 それから暫くたったある日。 男はうっかり銀行からお金を下ろすのを忘れ、自分の財布の中が空になってしまったこと気付いた。少しばかり考えた後、あの戸棚の奥のお金のことを思い出す。 少しだけなら……。 男は考えてはいけない事を考えてしまった。 一度使ってしまえば後はもうずるずると行ってしまうものだ。 男は400万もの大金をあっという間に使い切ってしまった。 はっと我に帰った時、男は近所からいろいろな噂をされている事に気付いた。もう遅い。 男はいたたまれなくなり、引っ越そうと考えた時、警察が家にやってきた。 金遣いが荒くなっただけで何故警察が。 男は激しくうろたえていると警察が捜査令状を差し出した。 男はそれを見てうまい話などこの世にはないもんだと悟った。 なんと使ったお金は全て偽札だったのだ。 すこしばかりではともかく、400万円もの偽札を使ったのではあれば警察も見逃してくれるはずもあるまい。 男はおとなしくお縄につき、その日の晩、全国にニュースで知れ渡ってしまった。 そして、何事も無かったかのようにアナウンサーが次のニュースを読み始めた時、ある男がぽつりと呟いた。 「まだまだばれてしまうのか。よし、次にとりかかろう」 END |