オブジェ

 だいぶ苦労したが……。
 私は大きく一息ついて、それを見上げた。
 巨大なオブジェ。
 それは私が彫刻家として過ごしてきた42年の集大成だ。
 もう、何年これを造り続けてきただろう。
 私は過去に思いを張り巡らす。
 駆け出しの頃の全く売れなかった時期。私は「彼」を見た。彼は売れなかった私に天啓を授け、去って行った。
 一つの約束と共に。
 それが今回ようやく出来る彼のオブジェなのだ。
 そう、文字通りの天使像である。
 私は彼と交わした約束を思い出す。今考えてみれば、どこか不思議な感じがする。
 その時、彼はこう言ったのだ。
「あなたは望む者ですか?もし、あなたがいつか私の事を世に伝えると言うのであれば、私はあなたに力を貸しましょう」
あの時は別に何とも思わなかったが今考えると妙な違和感がある。これは何だ?
 私はそれがまるで悪魔との契約で無いだろうかと一瞬考えたがぶんぶんと首を振った。
 どういう形であれ、彼は私を導いてくれた者なのだ。それを疑うのであれば例え相手が悪魔であろうが不実と言うやつでは無いだろうか。
 私は良くない考えが頭を支配しようとするのを阻止する様に、一心不乱に作業を続ける。
 とにかく全てはこれを完成させてからだ。
 私は42年間そうであった様に感謝と尊敬の意を込めて作業を続けた。
 そして。
 その日が来た。
 何か完成する度にいっぱしの完成披露を発表するまでになっていた私は早速それを報道陣に知らせた。
 私にとって久々の新作だというだけあって大勢の人が集まった。
 私は皆の前で天啓の天使と名付けたその像を皆に見せた。
 その時、
「あれ。彼じゃないか」
その場にいた全員が声に出した。
 どういう事だ。
 私はひどく驚いた。私が出会った天使は他の者にも現れたと言うのか。
 私は天使像を見た。
 すると天使像の横に誰かが立っている。
 像と同じ姿。
 そう皆が叫んだのは像の横に立つ彼に対してのものだった。
 彼はこう言った。
「うむ。なかなかの出来だ。これならお前に目をつけたかいがあったというものだ」
彼はそう言いながら、自分の像を持ちそのまま空中に浮かんだ。
 皆が茫然としてる中、彼は満足気に空へと消えて行こうしている。
 私はあわてて彼に話しかける。
「待ってください。あなたはその像を何の目的で欲しているのでしょうか」
彼は不思議そうな目でこちらを見た。
「趣味だ」
 私だけでなくその場にいた全員が妙になるほどと思いながら彼を見送った。
 彼はそのまま消えて行った。
 
                      END

小説タイトルに戻る      TOPに戻る