最終日

 例えるならそれは果てしなく巨大な壁だった。
 僕は頭を抱えている。
 何でこんな時期までほっといたんだ。
 目の前にあるのは大量に置かれているノートの数々。そう夏休みの宿題だ。
 僕は何でこんな事になってしまったかを思い出す。それは、忘れもしない夏休み初日。
 今年こそは最終日に苦しまないようにと先に全部宿題やっちゃうんだ。と大張りきりの僕。
 でも。
 一瞬だった。
 だって目の前に広がる大きな誘惑にはとてもとても勝てはしない。
 全力だ。力の限りめいっぱい遊んでやる。
 僕は宿題を物凄い速さで放り出して外に出掛けた。
 学校のプールで毎日泳いで、山には冒険に出かける。1週間に1回は海にも行った。
 秘密基地なんかは7個も作った。
 ちょっとした自慢だ。
 何だか家にこもってゲームとかしている人もいるけどそんなのはいつだってできるじゃないか。もったいないよと、僕はそんな人達も誘って冒険の旅に出た。
 最初はそんなの…。と言っていた友達たちもあっというまに冒険にはまっていく。
 そりゃそうさ。本物の冒険にTVじゃ勝てっこないって僕は初めから知っているんだ。
 夏休みという時間は不思議な勢いで過ぎていった。
 そして。
 今、目の前にある。
 その山。
 僕は大きく体をくねらせながら我が身を呪う。
 先にやっておけば良かった。僕は明らかに遅すぎる台詞を絶叫しながらごろごろと転げまわる。
 その様子を母さんが、転げまわる間にやんなさいよ。と、もっともらしい事を言ってそのまま通りすぎていった。
 僕はその母さんの大人の発言に従うしかないので、おとなしく机にしがみついた。
 時間が僕を追いたてながらいつもの何倍もの速さで過ぎていく。
 なんだか、目の前の宿題が減っていってる数に対して割に合わない。僕は嫌な汗をかきながら、恐る恐る時計をちらりと見てみた。
 ああっ……。
 天をあおいだ。
 神様、僕が悪かったです。もうしませんから時間を戻してください。
 僕は本気で神様に祈った。
 そうこうしながら最終日は過ぎていく。
 開き直ろうにもあまりにも残りの数が微妙過ぎてそれすらできない。
 打開作を必死で考える。この提出は授業の頭でいいやつだと思われるのをピックアップしながらそれを後回しリストに加え、これは初日に出さなければいけないってやつだけに集中する。
 密度の濃い時間が過ぎていった。
 そして僕は抜け殻になった。
 夏休みの最後はやっぱりこれだなあ。と僕はへろへろな頭で妙に楽しくなりながら考えていた。
 こうして夏休みの最終日は毎年と変わらない日を終えていくのでした。
 
                  終わり

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