そんな仕事
仕事の最中、私がとぼとぼと歩いていると、後ろから同僚が声をかけた。 「最近元気がないな。どうしたんだ」 彼は私と同期で入ってきた中で現在唯一残っているものだ。私は彼に話した。 「ああ、実はなここのところ自分の仕事に疑問を持つようになってきたんだ。この仕事を続けて良いものかなんて……」 彼ははははと明るい笑いを浮かべ、私の肩をばんばんと叩きながらこう言った。 「何も悩むことなんか無いだろう。うちらの仕事はとても重要で大切なぐらい判ってることじゃないか。我々はそれに誇りを持ってただやっていけばいいんだよ」 私はその言葉にさびしく頷きながら、 「それは判っているさ。ただ仕事上どうしても私達は嫌われるじゃないか。それが耐えられなくてね」 と答える。 「そればかりはしょうがない。だがこれは誰かがやらねばならないんだ。例え理解してくれなくともこの仕事が無ければ世界は滅茶苦茶になってしまう。ある意味、最も重要な仕事じゃないか」 彼はそう励ましながら、じゃっとそのまま去っていった。 私はふうと溜息をつきながら近くの公園に行き、ベンチに座りこんだ。 穏やかな天気の中、楽しげな親子達がのんびりと刻を満喫している。 「死神…か」 私はぽつりと呟いた。なんでこんな仕事に就いてしまったのだろう。 人からは嫌悪され、蛇蝎のごとく扱われる。 死神は実際には人を殺したりなんかしやしない。既に死んでしまった魂を迷わないように送り届けるのが仕事なのだ。そうしなければこの世は幽霊であふれかえってしまい大混乱だろう。それを防ぎ、世の中の流れを円滑に進める。そんな大事な仕事なのに。 「わかってくれよ……」 私は心からそう思うが、誰も判ってはくれまい。仕事の内容どころか存在だって簡単に認めてはくれないのだ。 私は一息を入れ、ゆっくり立ち再び仕事に向かった。 私と彼以外の同期はそんな矛盾に悩み仕事をもうやめてしまった。大事ではあるが慢性的な人手不足なのだ。いつまでも休んではいられない。 それに悩んだりさぼったりしたらそれだけ報酬が下がる。この仕事の報酬は誇りなのだ。 「がんばろう」 自分自身に力無く言い聞かせ私はその日の仕事を終えた。 そしてその仕事帰り。 「よう」 私は再び後ろから声をかけられた。同僚の彼だ。 彼は私に昼の続きを聞いた。 「なんだってそんなに悩んでいるんだ?君も他の同期と同様やめてしまうのかい」 私はそれには首を振った。 「いや、それはまだ考えていない。これ以上に誇りがかけられる仕事なんかそうそうないし。なんと言っても世界の秩序を守っているなのだから」 彼は笑って答えた。 「そうそう。わかっているじゃないか。確かに人からは認められにくい仕事ではあるけど、だからこそやりがいというものがあるんだよ」 「それはそうだけど」 私は言葉にしにくいもやもやを感じながら話す。 彼はそれを察して私にこう言った。 「我々の報酬は何だかよく判っているだろう」 私は黙って頷いた。 「そう、誇りだ。なのに今の君はこの仕事に対して誇りをいまいち感じられないよ。それではただ、精神的に苦しいだけの重労働だよ」 彼は熱弁を振るう。 「もし君にこの仕事に対しての誇りを失ったのならそれは素直に仕事をやめるべきだ。大切なのは誇りと魂に対しての尊敬なのだから。我々の仕事の意味は幸福のお手伝いなんだよ」 彼は一気にまくしたて私を見た。そして最後に、 「少なくともうちは君をわかっているよ」 と付け足した。 なるほど。私は確かに最近誇りを失っていたかもしれないと反省する。誇りを得るための仕事で誇りを失っては何にもならないではないか。自分の居場所をしっかりと判っていれば悩む事だって無いはず。 私は無くした宝物を再び見つけた気分になり、 「ありがとう。大切なことを思い出したよ」 と彼に言った。 彼は少し照れたように見えた。 「君が元気が無いとこっちだって元気がなくなるさ。気にすんな」 彼は笑いながら去って行った。 私もまた日々の中に戻って行こうとしたした時、ふと彼の言動を考えた。 もしかして、元気がなくなるって……。 彼が私に?まさか…ね。 ま、いっか。 私はこんどこそ日々の中に戻って行った。 END |