ゆっくりと目を開ける。目に飛び込むのは僅かにしか点いていない照明と白い天井。視覚は動く。

 腕を持ち上げる。斜めに寝かせられた私の体から90度の角度まで動かしてから手を握る。体は動く。

 寝かされた体を立ち上げ、体に異常が無いかを調べる。

 ……大丈夫、どこにも異常は無い。

 ここは何処? 大丈夫、分かる。

 私は誰? 大丈夫、分かる。

 私は何をしていたの? どうしてここにいるの? 大丈夫、分かる。全部分かる。

 ここは何処? ここは私のクローン達が眠る場所。今となっては、私もクローンになってしまったけれど。

 私は誰? 私は魔物。造られた魔物。土くれから造られた人とは似て非なるバケモノ。同じ体が幾つもあるバケモノ。

 私は何をしていたの? 私は戦ってた。大切な人達を護る為に、人の世界で生きていたい為に、私は戦っていた。

 でも負けた。私は負けた。体をバラバラにされて死んだ。復活できないぐらいに、バラバラにされて。

 どうしてここにいるの? それは簡単。私が死んだから。私が死んで、私のクローンが動き始めたから。

 だから私はここにいる。体は違うけれど、意識と記憶は前のままの私がここにいる。

 クローンを保存しておくカプセルから出た私は、一糸纏わぬ姿となっていた。この体の記憶を頼りに服が入ってる場所へと向かう。

 部屋に合った、着ていた服と寸分違わぬ服を手早く着て、元の部屋に戻る。この部屋から私がいた場所、すなわち私がいたドミニオンへのゲートを開く機械があるのは、また違う部屋。

 その機械のある部屋に入ってゲートを開ける為の機械を動かす。記憶と意識の転送ルートから居場所を割り出されているが、ゲートを開くのは少しばかり時間がかかる。

 機械が動き出し、ゲートが開き始める。多分3分ぐらいは時間がかかるだろう。私は何をするでもなく、私のクローンがいる部屋に戻ってみた。

 カプセルの中に沢山の私がいる。私と何も変わらない私が沢山いる。

 普通の人ならどう思うだろう。沢山の私がいて、運さえ良ければ、私の体さえあれば、私は何度でも復活する事が出来る。

 天然のバケモノ、例えば吸血鬼や人狼とは違う、造られた存在ゆえのバケモノらしさ。

 そして時に、ひとりでに動き私を壊そうとするために動く、私であって私じゃない『私』。

 ほんの少し前に、私の体が壊れ、記憶と意識が違う体に替わっただけの事だと言うのに、不思議な思いが胸の中に残っている。

 私は、私の一人が眠るカプセルにそっと手を添える。

 出来る事なら壊してしまいたい。でもそれが出来ない事は分かっていた。自己防衛用のプログラムが働き、私は私を壊す事が出来ない。

 出来ることなら、私は私達には動いてほしくない。私が死んだからだとしても、私を殺すためだとしても…

 不意に私の目から涙がこぼれる。それは何故なのか分からないから。

 辛いわけでも、苦しいわけ、哀しいわけでもない。もしかしたらこの体の機能がどこか壊れてるからかもしれない。

 でも、それはどうでもいいこと。その程度に過ぎないことなのだ。

 部屋を後にする。隣の部屋ではゲートが出来ていた。少しだけ後ろの、私達のいる部屋を見て、一言呟く。

 「ゴメンね、私」

 そしてゲートの方を向き、歩きだす。ゲートをくぐり、元の世界に戻るために。

 私はいくよ、自分の居場所を守る為に。私はいくよ、自分を殺さない為に。

 私はいくよ。二度と死なないために、この体で、生き続ける為に。
 

     end

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