慢性硬膜下血腫 (まんせいこうまくかけっしゅ)
慢性硬膜下血腫は、軽微な頭部外傷後およそ2週間から1〜3カ月経って、硬膜下腔、すなわち頭蓋骨の内側にある硬膜という厚い膜と脳を包むクモ膜という膜の間に血液が溜まる病気で、男性の高齢者に多くみられます。約30%は誘因なく発症し、原因としてアルコール多飲、肝疾患、動脈硬化などが知られています。硬膜下腔の血液はゆっくりと増大していき、その結果、大脳を圧迫するようになり、頭痛、嘔気、手足の麻痺、失語、知能障害など様々な症状が出現し、放置すると死亡することもあります。
治療法について
放置すると重篤な後遺症を残したり、死亡する危険性も考えられる場合には手術を行います。普通は局所麻酔で頭蓋骨に穴をあけて、その穴から血腫を洗浄するという方法です。手術後にその穴を通して血腫腔にドレーンと言うチューブを挿入してくることもあります。できるだけ早くこの手術をするのがよいと考えています。
手術の危険性、合併症
脳外科の手術の中では比較的危険性が低いですが、頭蓋骨に穴をあけたり硬膜を切開したりする操作で、脳に傷をつけることもありえます。また血腫除去に伴う脳の構造変化や洗浄の操作や術中に血圧が上昇して脳出血をおこすこともありえます。その他、手術一般としての危険性として、麻酔、輸血(通常は必要ありません)、薬剤によるアレルギーやショック、肝臓などの臓器への障害、術後感染などにも留意しなければなりません。最悪の場合は死亡したり、重篤な後遺症を残すこともありえます。
一般的に、90%の方は手術で症状の著明な改善が得られますが、高齢者などでは脳が萎縮しているため、圧迫されていた脳の正常構造への回復が悪く、術後も症状の改善がみられないこともあります。また手術で完全な血腫除去が得られないこともあります。また、手術で症状が改善していたのに、術後に再出血が生じて症状が再発することもあります。約10%の方は再手術が必要になります。
くも膜のう胞
脳を覆っているくも膜の下に、通常より多く水がたまってしまう先天的(生まれつきの)異常です。頻度は人口の0.1から数%とされています。
無症状なことが多く、脳の精密検査(CTスキャンやMRI)で偶然に見つかることが多いのですが、中には頭痛やてんかんや出血を生じることがあります。脳腫瘍とは異なり、急激に大きくなることはめったにありません。
一般に治療は不要ですが、非常に大きなものや症状がある場合は治療を要する場合があります。一般には頭から腹腔に管を通じて水を抜く方法(のう胞短絡術)を行ないます。その他には、開頭術を行って直接のう胞の被膜を切除する方法や、内視鏡を用いてのう胞の被膜を開放する手術も行なわれています。日常生活で何々をしてはいけませんという禁止事項はないと考えてください。学生では、学校での体育の授業は参加してもらいます。しかし柔道、空手、ラクビー、ボクシングは頭部を強く打撲する可能性が高いのですから、やらないように指導します。なぜなら、過激な運動により“くも膜のう胞”の中を走っている血管が切れて、硬膜下血腫といって、脳の表面に出血して、血液の固まりができることがあるからです。このような際には激しい頭痛や吐き気がおきます。そのような際にはすぐに脳神経外科を受診してください。
認知障害(痴呆)、歩行障害、失禁の3つが主症状とされています。特発性NPHでは歩行障害が最も重要な症状で、老人性痴呆との鑑別点であり、また、歩行障害がみられればシャント手術の効果が期待できるともいわれています。歩行障害では、小刻み歩行で、歩行の不安定さが目立ちます。障害が強くなると、立ったままで歩き始めることができなかったり、立位を保持することができなくなります。痴呆では、記名力、すなわち最近の記憶の障害が主体となります。自発性がなく、思考や行動面での緩慢さが目立ち、物事への興味をなくし、ぼんやりとしていることが多くなります。3徴候の内で尿失禁は最も遅く出現する症状で、その出現頻度も他の二つの症状に比べると少ないとされています。排尿が間に合わないということもありますが、多くの場合、無関心さからくる失禁です。
検査として、CT や MRI により脳室拡大の有無をチェックします。その後は、髄液循環障害の検査(腰椎タップテスト、脳槽造影 CT等)を行います。腰椎タップテストとは、腰椎レベルのくも膜下腔に穿刺針を刺し、過剰に溜まっている脳脊髄液を少量排除することにより症状が改善するかを診断します。
治療法は、脳室内の髄液を腹腔(あるいは心房内)に導き、そこで吸収をはかるシャント(短絡)手術が行われます。このシャント手術による改善率は、原因の明らかな続発性NPHで60−70%、特発性NPHで約40%と報告されています。シャント術で劇的に症状が改善する症例があります。一般には痴呆(認知障害)は治らないとされますが、当疾患は“治る認知障害”として有名になってきました。その一方で、手術患者は高齢で脳萎縮を伴なっていることが多く、シャントで脳室が縮小すると脳表が頭蓋内面より離れて落ち込み硬膜下血腫と呼ばれる合併症をきたすことがあり、術後定期的に追跡する必要があります。
このページのトップへ