水頭症で髄液を抜く手術(脳室腹腔短絡術、脳室心房短絡術、腰部腹腔短絡術:総称してシャント手術と呼びます)を受けた患者では様々な注意を要することがあります。
ここでは国立病院機構大阪医療センター脳神経外科の山崎麻美先生の著作を参照にさせていただき、シャントに関する様々な注意事項を記載します。

シャント手術を受けられた方へ
シャント手術を受けられたお子さんのご家族の皆さんへ         
       国立病院機構大阪医療センター 脳神経外科 山崎麻美 先生著作より
                            (山崎先生は今は当院の脳神経外科部長です)
           パンフレット「シャント手術を受けられた方へ」

                     監修/財団法人日本二分脊椎・水頭症研究振興財団            
           『成長した水頭症
VPシャント術後患者さんの長期ケア』水頭症の手引き
                     財団法人日本二分脊椎・水頭症研究振興財団

はじめに

最近ではインターネットなどを通じていろんな情報が簡単に手に入るようになりました。しかし、時にはそれが不安の種になったりすることもあります。
お子さんの発達の程度や水頭症の状態は、水頭症の原因となった疾患が多種多様で程度の差もあるので、おひとりずつ違うと言っても過言ではありません。そのため、ほかの方の情報が必ずしも役に立つと言うばかりではありません。

ともかく、あまり神経質にならずに、これからはシャントとうまく付き合って、その子なりの成長と生活を楽しんでください。
シャントが入っていることで注意していただくことを少し書いておきます。

1.    シャントの具合が悪くなる(機能不全)というのはどうことですか?

シャントの具合が悪くなるのというのは、感染(ばい菌がつく)、閉塞(つまってしまう)、断裂・移動(ちぎれたり、元の場所から動いてしまう)などを指します。

(ア)どんな症状が出るの?

大事なことはシャントがつまった時の症状も進行する速さも人によって違います。
人によっては、数ケ月あるいは何年もかけて症状が出てくる場合もありますが、短時間(数時間)で意識がなくなって瞳孔(瞳の中の黒いところ)が散大してしまう方もおられます。これはその人の髄液の循環がどれだけシャントに頼っているかによります。だから、ご自分の、あるいはお子さんの症状を把握しておくことが肝心です。とりあえず一般的な症状について列記しておきます。

@   大泉門が閉じる前

頭囲が大きくなる、大泉門が大きくなってくる、黒目が下がってくる(落陽現象)、ミルクをはく、シャントチューブのまわりがソーセージのように膨くらんでくる、不機嫌になる、かん高い泣き方をするなど

A   大泉門が閉じた後

頭痛、嘔吐、物が二重に見える、うとうと眠る、眼振が強くなる、学校の成績が悪くなってくる、シャントチューブのまわりがソーセージのように膨くらんでくる

B   シャント感染を起こした時

頭痛、発熱、シャントチューブのまわりが赤くなる

こういう症状が出てきた時はすぐにかかりつけの脳神経外科医に相談しましょう。

(イ)シャント手帳

できれば自分のシャントの状態を書きとめたシャント手帳のようなものを持っていることをお勧めします。最近ではシャントにもいろいろな種類があります。圧が一定のもの、圧が変えられるものなど、自分が、お子さんがどんな種類のシャントバルブを使っているか、圧を変えられるときはいくらに設定されているか、シャントをどこに入れたか、シャントが良く効いているときの脳室の大きさはどの程度なのかなどを自分で把握していることが肝心です。シャントがつまった時、いつもの先生にかかればいいのですが、違う病院にかからざるをえなかったり、違う先生にあたったりしたときに困ることがあります。何年も病院に行ってなかったらカルテが保管されてなかったり、CT写真が見つからなかったりすることさえあります。何度も強調しますが、人それぞれ違うのでシャントがつまった時の状態を正しく診断するためにそのような経過やデータが必要です。

2.    シャントとうまくつきあうこと

シャントを入れているからといって生活を制限する必要はありません。体育もできるし、プールももちろんできます。頭をぶつけあうような競技はさけた方がいいかもしれませんが、工夫すればほとんどのスポーツは可能です。サッカーなどを行う際にはそれなりに注意が必要になりますが、禁止づくめでは親は安心でも子供の不満が高まってしまいます。状況に応じた対策を行うと同時に、成長に伴った本人の自覚に任せることも大事です。

シャントをしていたら常にヘルメットを着用する必要があるのではないかという方がいましたが、特別な場合(けいれんがあってよく転倒する、硬膜下血腫を何度も作りやすいなど)以外はそんな必要はありません。

保育園、幼稚園、小学校では水頭症でシャントをしていると敬遠されることもありました。多くは水頭症児の保育をしたことがないことからくる不安が原因になっています。この問題に対しては日本水頭症協会から『水頭症ハンドブック‐保育園・幼稚園の先生へ』というのが出ており、インターネットでダウンロードできるのでご利用ください。

就業については、水頭症病態により発揮できる能力や職種の制約が生じえますが、一般的に病態が安定していれば、どのような職業に就いていただくことも可能です。シャントが入っていることだけによって社会的不利益を受けることはありません。

3.    圧可変式シャントシステムと日常生活のなかの磁石

圧可変バルブの場合は、MRI検査の後に圧が変化することがあるのでチェックしてもらう必要があります。一般生活上、電気製品の存在はそんなに問題となりません。しかし、まれですが原因不明のままいつもの設定が変わってしまっている例もあります。下表に気をつけることが書かれていますので参考にしてください。

4.    水頭症は治ってしまうの?

水頭症は幼児期から学童期だけの問題で、思春期を過ぎれば停止性水頭症になってしまうという考えがありますが、必ずしもそうではありません。一旦はシャンが不要になったようにみえる人でも、脳圧をはかってみればそうでないことがあります。思春期を過ぎても1年に1回ぐらいは定期検査を受けることをお勧めします。腹腔のカテーテルが短くなる前に、計画的に延長する必要もあります。

5.    妊娠・出産について

ここでは女性でシャントを入れている患者さんの妊娠・出産についてふれます。国内ではまとまったデータがないのですが、北米からの70138妊娠をあつかった報告では、シャント機能に異常がなかったのが70%以上、妊娠中にシャント機能不全を生じたというのが47妊娠、出産後半年以内にシャント機能不全を生じたのが1324妊娠ということでした。一方、1632妊娠で流産を生じています。この結果からみると、通常はシャントを受けていても問題なく経過するが、一部の人には妊娠・出産に伴いシャントトラブルが繰り返しやすいと言えそうです。シャントを受けた患者さんの妊娠・出産にあたっては、やはり産科的、脳神経外科的救急に対応できる病院で経過をみてもらうのが安心と思います。

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日本水頭症協会のHP
http://www.suitoushou.net/pc/index.html

財団法人日本二分脊椎・水頭症研究振興財団が作成したパンフレットです。
是非とも参考にしてください。

http://www.jikeikai-group.or.jp/jsatoshi/cntmntsassi.pdf

磁石を使用した圧可変式バルブを使用されている方の注意事項(B

バルブに影響がある場所

バルブに影響のない場所

MRI検査室

医用マッサージ

 検査を受ける前に担当の方に申し出てください

電車などの人ごみの中               

屋内外に設置された大型スピーカーの近く

 (携帯電話の使用など)

科学技術館などの磁石を利用した施設

高圧線の近く

 

IH調理器具

 

日常生活の中の磁石

 

セキュリティーチェック

 

 (空港や盗難防止など) 

 

 ただし立ち止まらないこと

 

磁石を使用した圧可変式バルブを使用されている方の注意事項(A

使用してはいけないもの

バルブ留置部を接触させては     いけないもの

接触しても影響なし

磁気枕

冷蔵庫・電子レンジのドア

電子レンジ

磁気マットレス

ヘッドホーン

電気毛布

磁気ネックレス

イァホーン

電気こたつ

磁気ブレスレット

携帯ラジオ・テレビ・ステレオ・

電気掃除機

磁気治療器

 携帯電話のスピーカー

電気洗濯機

 

磁気腹巻

ヘアドライヤー

 

磁気サポーター

ワープロ・パソコン

 

 

ファクシミリ・コピー機