無銘 実阿

   上作







 古刀(鎌倉後期 約700年前)
財)日本美術刀剣保存協会 
  第三十四回重要刀剣指定品








長さ72.35m 反り2.0cm 目釘穴3中1埋
元幅3.0cm  先幅2.0cm 元重0.8cm

 実阿は西蓮の子、大左の父と伝え、元弘三年紀、及び建武二年紀太刀が現存することから、その活躍期は明らかであるが、有銘作の現存は比較的少ない。 作風は入西、西蓮と比べてやや幅広のものがあり、鍛えは板目が大きく肌立って流れ、一派の中で最も荒びる傾向にあり、時に綾杉風も見られる。 また刃文は直刃を主調とし、匂口が弱く、沈みごころに沸がつくなど、従来の田臭ある九州古典派の作域を墨守した感がある。
 この刀は大磨上無銘ながら、身幅がやや広い造込みに、板目鍛えが肌立って、流れ柾が交じり、地景が入り、刃は浅くのたれ調の直刃が沈みごころとなるなど、実阿と鑑すべき作風を示している。 (重要刀剣図譜より抜粋)

 本作は鎬造りで、鎬高く、身幅やや広く、重ねやや厚く、中切先の堂々とした体配。 鍛え、板目に大板目交じり、肌立ち、刃寄り流れて柾がかり、地沸厚くつき、地景交じり、淡く映りが立つ。 刃文、浅くのたれ、細かに叢なく沸つき、ほつれ、砂流しかかり、匂口沈みごころとなる。 帽子、表直ぐに小丸、やや深く返り、裏浅くのたれて小丸、先掃きかける。 表裏に棒樋を掻き通す。 茎、大磨上、先浅い栗尻、鑢目勝手下がり。

 隣国の元による日本侵攻、世に言う元寇により九州北岸が国防の要となり、それに伴い多くの刀工が現地に招聘され、鍛刀するようになります。 九州の刀剣界は俄然活況を呈し、多くの良工が出現するようになります。 中でも九州古典派を代表するのが実阿であり、その力量は他の九州勢と比較して群を抜いています。
 地鉄がよく練れ、一面に柔らかな沸が厚くつく様は、それまでの九州古典派の作とは若干異なる趣を呈し、息子の左文字らによる相州伝の到来を予見させる。 通常目にする実阿は肌立ちごころが強く、がさつくものが多いのですが、本作は地鉄無類に良く、潤いがあり、鎌倉期ならではの深い味わいに満ちています。 加えて、匂口殊に明るく、刃中の働きが豊富で、変化に富み、実阿と言うよりも当麻、若しくは相州行光思わせる素晴らしい出来栄えです。 大磨上ながらも二尺四寸近い長さに七分弱の反りを保つ優美な鎌倉時代の太刀姿を今に残し、身幅広く、地刃共に至極健全で、700年を経た刀とは思えないほど瑞々しく、力強い。 長寸かつ極めて良好な状態で現世に伝わったことからも伝来の良さが窺え、数百年の永きに渡り施政者に愛されてきたことが容易に想像できます。