(金象嵌銘)正宗
     本阿
(花押)(光純)

   最上作




  古刀 (鎌倉末期 約700年前)
財)日本美術刀剣保存協会 
  第四十六回重要刀剣指定品








長さ69.5p 反り1.6cm 目釘穴3個
元幅2.95cm 先幅1.95cm 元重0.7弱

 新藤五国光門下の行光・則重・正宗の三者は、国光が創始した相州伝に地景・金筋・沸を一層強調し、これを完成へと導いた。 特に正宗は炭素量の異なる数種の鋼を巧みにあつかい、また沸の妙味を極め、日本刀の芸術性向上に大きく貢献している。  この刀は、大磨上無銘のものに本阿弥光純が正宗と極め、金象嵌を施したものである。鍛えは板目に杢が交じり、地沸が厚くついて、地景がよく入り、錬れた肌合を呈しており、刃文はのたれ調に互の目が交じり、よく沸つき様々な働きを見せ、地刃共に沸の変化の妙を示している。光純による正宗極めは首肯されるものであり、健全で、地刃の冴え冴えとした状は特に見るべきものがある。(重要刀剣図譜より抜粋)

 鎬造り、身幅尋常にして、適度に反りがつき、中切先延びごころとなる。 地鉄、板目に杢目交じり、一面に地沸を厚く敷き詰め、地景がよく入る。 刃文、のたれ調に互の目が交じり、小足入り、きらめく沸がよくつき、処々荒めの沸を交え、砂流しが頻りにかかり、金筋入り、飛焼交え、激しく働く部位は幽玄な趣を呈し、焼き低く大人しい刃取りの部位には湯走りを盛んに交えるなど、正宗の刃取りとしては正に理想的。 特に一粒一粒の沸の明るさ、輝きは尋常ではなく、同工他作と比較してもそれは傑出している。 帽子、盛んに掃き掛け火焔風となる。 茎、大磨上で表に「正宗」、裏には「本阿」の金象嵌銘が入る。

 正宗は炭素量の異なる数種の鋼を使うその製法のためか、地鉄の状態が荒く見えるものや、実際に地鉄の荒れたものもしばしば見かけます。 特に短刀より刀にその傾向が強く現れるようで、元々の数が少ないことも影響し、無傷でコンディションの良い、しかも出来の優れた刀の正宗となると非常に稀少なものとなります。 本作は正宗の典型作であるうえに、極めて状態も良く、相州伝の真髄である沸の妙を余すところ無く伝えており、古来より正宗について述べられる多種様々な特徴が刀身上に現れています。 正に彼の本領が遺憾なく発揮、そして集約されており、正宗の本質を理解するうえでも最高の教本になりうる名作と言えるでしょう。 日本刀の最高峰である正宗、その正宗作中において、本作は紛れも無く傑作の評に値し、重要刀剣指定が決して十分な評価でないと感じさせる名品です。