無銘 左文字
  (附)貞享元年光常折紙

   最上作
   毛利家伝来品



  古刀 (南北朝期 1334年頃)
財)日本美術刀剣保存協会 
  第二十一回重要刀剣指定品








長さ70.4p 反り1.9cm 目釘穴4個
元幅3.0cm  先幅2.15cm 元重0.7cm
 

 大磨上無銘で左文字の作と伝え、貞享元年の代金子参拾枚の光常折紙がある。左は筑前の刀工で左衛門三郎の略といい、相州正宗十哲の一人に数えられている。その作風は九州物の伝統的な作風を打破し、地刃が明るく冴えた沸出来の美しさを見せている。短刀に在銘が多く、太刀は名物江雪左文字ただ一口である。  この刀は所伝を首肯し得る作で出来がよい。(重要刀剣等図譜より)

 姿、鎬造、庵棟、身巾尋常に腰反りつき、中切先。 鍛え、小板目よく詰み、地沸微塵に厚くつき、地景細かに入り、沸映り太刀、地金(じがね)抜群の冴えを見せる。 刃文のたれ調に小乱れ互の目・小互の目・丁子ごころの刃・尖りがかった刃などが交じり、小沸よくつき、足・葉盛んに入り、砂流し、金筋かかる。 帽子乱れ込み先尖って掃かける。 茎、大磨上、先深い栗尻、鑢目筋違、目釘孔四、無銘。

 左文字は通称「大左」といい、父は実阿、祖父は西蓮、曾祖父は良西と伝えられ、鎌倉期における九州地方随一の名門の出と言えます。 従来の九州古典派の作域から大きく脱却し、地刃共に明るく冴え、地景や金筋の目立つ等、非常に華やかで垢抜けた、全く新しい作風を確立した不世出の天才です。 左文字の短刀の遺例は比較的多いのですが、在銘の太刀は極めて少なく、現存する確かな在銘品は国宝「江雪左文字」の一振りのみです。 

 左文字の極めには左文字、伝左文字、左、伝左の四通りあり、「左文字」は大左を意味し、「左」は大左のみならず左一門全体を指すときに使われるようです。 「伝」は100%とは言い切れないが概ねそうであろうとの意味です。 左文字の刀で重要刀剣及び特別重要刀剣指定品全17振り中「左文字」で極められているのは本作を含め僅か三振りのみで、これは大磨上の刀で大左であると断定されているものが三振りしかないことを意味します。
 
 本作には目利きとして名高い本阿弥家第十二代光常の「左文字」極めの古折紙が附属しています。 光徳刀絵図や光山押形などから窺い知れるように江戸時代には少ないながらも左文字の刀の在銘品が幾つか存在していたようで、当時は現在よりも極めを行う上で参考とする在銘品、つまりサンプル数が多く、より正確な鑑定を行うことが出来たと言え、本作に附随する光常折紙の重要性は極めて高いと言えます。 

 大磨り上げながらも古来より左文字とされてきた数少ない、大変貴重な作です。