順位の出し方、考え方



1998年度のルール改正で、順位の出し方がややこしくなりました。面倒くさくて今まで触れていなかったのですが、やっぱりここは抑えておこうと思います。ちなみに、2000年度のルール改正に対応しています。

1.基本的な考え方


現在の計算方法は、簡単に言うと、総当り方式、つまりリーグ戦方式です。Jリーグの順位の出し方と似たようなものです。得点、失点、勝ち負けを使って順位を計算しますよね。あれです。


よくあるパターン

1 2 3 勝ち 得点 順位
1 4-1 5-0 2 9 1
2 1-4 3-2 1 4 2
3 0-5 2-3 0 2 3


これを、少しずつフィギュアスケートの計算方法に変えていってみましょう。
まず、この"5-0"とか"3-2"の部分です。サッカーならば、これは、得点、失点ですよね。上の表では、1番の選手と2番の選手を比べ、"4-1"となっています。フィギュアスケートでは、例えば5人ジャッジがいて、1番の選手と2番の選手を比べたとき、4人のジャッジが1番の人に上をつけて、1人のジャッジが2番の人に上をつけた、という結果を"4-1"とします。つまり、"4-1"とは、その2選手を比べたときに4勝1敗であったことを意味します。

さらにフィギュアスケートには、ジャッジが2人の選手に同順位を付けることがあります。すなわち、引き分けです。引き分けを表に入れてみました。(数字も少し変えました)


引き分けを導入

1 2 3 勝ち 得点 順位
1 4-1(0) 5-0(0) 2 9 1
2 1-4(0) 2-2(1) 0 3 2
3 0-5(0) 2-2(1) 0 2 3


( )の中が引き分けの数です。2番の選手と3番の選手を引き分けにしてみました。で、それに合わせて2番の選手の勝ちが0になりますが、得点が多いのでとりあえず2番の選手が上っぽいですよね。

次は、"勝ち"の項目を見直します。"勝ち"にあたる部分は、フィギュアスケートでは、比較点(英語では、comparative point)と言います。Jリーグで言えば、勝ち点です。"勝ち"に対して2点を、"引き分け"に対して1点を与えます。


比較点を導入

1 2 3 比較点 得点 順位
1 4-1(0) 5-0(0) 4 9 1
2 1-4(0) 2-2(1) 1 3 2
3 0-5(0) 2-2(1) 1 2 3


1番の選手は2勝ですから4点、2番と3番の選手は0勝1引き分けですから1点となります。

次に、得点の項目を見直します。得点にあたるのは、ポイントインフェイバー(PIFと表記、英語ではpoint in favor)と言います。ある2選手を比較した際、勝ちを付けたジャッジ一人につき2点を、引き分けをつけたジャッジ一人につき1点を与えます。つまり、上の表で1番と2番の選手を比較して1番が4勝していますから8点を、2番は1勝ですから2点を与えます。
そうしてできた表が下のようになります。


PIFを導入

1 2 3 比較点 PIF 順位
1 4-1(0) 5-0(0) 4 18 1
2 1-4(0) 2-2(1) 1 7 2
3 0-5(0) 2-2(1) 1 5 3


さあ、最終順位の出し方です。まず、比較点がより高い選手が順位が上となります。すなわち、1番の選手が1位です。
次に、比較点が同じ場合はPIFが高い選手が上となります。つまり、2番の選手が2位です。
これも等しかった場合、同順位となります。


これで順位の出し方はすべてですが、間に言葉を濁した箇所が1つあります。
2人の選手を比べたとき、何人のジャッジがどちらを上に付けたかあるいは引き分けをつけたか、が表に入る4-1(0)とかの数字でした。では、何をもって上とするのか、です。

フィギュアスケートには、第1点、第2点という2つの点数があります。ここではシングル、ペアに限って話を進めます。
シングル、ペアの試合は、基本的に2つの競技から成り立ちます。すなわち、ショートプログラムとフリースケーティングです。
ショートプログラムでは、第1点をエレメンツ、第2点をプレゼンテーションと呼びます。フリースケーティングでは、第1点をテクニカルメリット、第2点をプレゼンテーションと呼びます。いずれも、第1点が技術点、第2点が芸術点というイメージです。

競技としては、ショートプログラムが技術重視、フリースケーティングが芸術重視、となります。

2人の選手を比べ、あるジャッジがどちらが上を付けたかを決めるには、まず第1点と第2点の合計を見ます。当然、合計が上のほうが上です。同点の場合、ショートプログラムでは技術重視のため第1点が上の方が上になります。逆に、フリースケーティングでは芸術重視のため第2点が上の方が上になります。


以上で、順位の出し方はすべて話しました。次は、そこからいくつかポイントを挙げてみましょう。


1.高い点数で得た勝ちも、ただの1勝。
つまり、ある一人のジャッジが非常に高い得点を出したとしても、それは1勝にしかすぎないということです。それ以上の価値はありません。逆に、ぎりぎりで負けても、負けは負けです。そして全ジャッジをトータルした勝ち負けは、それらの合計で決まります。例えば5人ジャッジで、2人が非常に高い点数を出しても、残り3人がたとえ僅差で負けを出した場合、負けなのです。
ここで少し数のマジックを。

合計点が、
選手1 10.0 10.3 10.1 10.3 10.2
選手2 10.1 10.0 10.2 10.0 10.3

どっちが上でしょう?
選手1は、小数点以下が0,1,2,3,3、選手2は、0,0,1,2,3、これだけ見ると明らかに選手1の方が上に見えます。しかし、実際には選手2が3勝しているので、トータルでは3勝2敗で選手2の勝ちです。他の競技に例えると、10点差で勝っても1勝、1点差で負けても1敗ということです。野球でもサッカーでもバスケでも相撲でもこの原理はすべて同じです。

ではなぜ、フィギュアスケートでは合計点を重視しないのでしょう?
フィギュアスケートの点数は、絶対点ではなく、相対点だからです。このジャンプは何点、などというルールはありません。
例えば、上の例では、1番、3番、5番ジャッジは、すべて0.1の差で選手2を上にしています。しかし、ジャッジ全員が、それを僅差と思ってその順位を付けたとは限りません。例えば、1番ジャッジを例に挙げると、本当はもっと実力差はあるけども、選手1より下と思う選手にすでに9.9を出していて、選手2より上と思う選手に10.2を出していて、間はそこしかなかったかもしれません。
逆に、2番ジャッジと4番ジャッジは、0.3の点差で選手1を上につけていますが、僅差と思いつつも他の選手が間に入ってくることもあると判断してその間を広めに開けただけかもしれません。

ジャッジは、あくまでも順位を付けるのが最大の仕事なのです。そのジャッジが何点をつけたか、に注目せず、そのジャッジが何位をつけたか、に注目しましょう。

2.合計点は順位に関係ない
既に説明した通り、ジャッジは順位を付けるのが仕事です。実力が切迫している選手が多数いる層では、イメージ的には0.2ぐらいに収まるような選手たちでも、順位を付けようとすると1.0ぐらいの幅を使う必要が出たりします。そんなとき、大混戦の上に出るか下に出るかで本来0.2ぐらいの差が、1.0ぐらいの差になったりするということです。
そんな理由からか、合計点は順位の決定には使用しないのです。

3.重要なことは、各ジャッジが自分に何位をつけたか、である
結局はこの結論に達します。選手はついつい出た点数だけで自分の評価がそれであると解釈しますが、そうではないのです。
すべての選手に1.0ぐらい余分に出しているジャッジがいたとしましょう。自分の演技にみんなは3.0をつけるなか、一人だけ3.5をつけてくれた、それをどう思いますか?それは他のジャッジより順位を低く付けられているということですよ。逆もあります。すべての選手に1.0ぐらい低く出しているジャッジが自分は0.5ぐらいしか低くなかったとすれば、見た目は他のジャッジより0.5低くついていることになりますが、実際には高い評価をしてくれているのですよ。
本当に自分の評価を知りたいのならば、各ジャッジが自分に何位をつけているのか、ちゃんと確認しましょう。



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