これをやったのになぜ点数が出ない?

点数につながるもの、つながらないもの


よく、あの人はこのジャンプまでしか飛んでないのに、このジャンプを飛んだ私はこの点数なの?
とかクレームまがいの話を耳にします。順位はジャッジの多数決で決まるようなものなので、
ジャッジの構成で大きく順位が変わることはほとんどありません。
ではなぜ、選手あるいはその指導者とジャッジとでそんなに見方が大きく変わったりするのでしょうか?
もっとも大きな要因はこうだと私は考えます。
まず、選手またはその指導者が順位を上げようとしたとき、そこにクリアすべき課題ができます。
例えば・・・。”この試合の出場者は2級までだから、アクセルとダブルサルコウを下りれば優勝できるはず”
そう考えて練習していれば、おのずとして、”ジャンプを飛ぶ”ということに主眼を置き、
点数もジャンプの種類、下りた数、成功率との関係を強く見ることになるでしょう。
当然、試合でそのジャンプに成功すれば、勝てる要素を満たした、という意味で勝ってしかるべきと思うでしょう。
では逆に、こんな課題を考えた人がいればどうでしょう?
”アクセル、ダブルサルコウまで下りる人が出るかも知れないけど、所詮2級の滑りだから、
4,5級レベルの滑り、ステップを試合でできれば、ルッツまででも勝てるはずだ”
また、こんなことを考える人もいますね。
”ジャンプはどうせ似たようなもんだから、スピンで勝負だ”
”エレメンツなんて所詮みんな2級レベルだ、プログラムは懲りまくれば選手権とも張り合えるんだ”

さて、この4つの考え方を持った人間が、それぞれその道を突き進み、試合に挑めばどうなるでしょうか?
4人全員が、負けた気がしなくても、全員に順位がつくわけですよね。
当然、自分たちの価値観の中では全員が1位なわけですよね。

前置きが長くなりましたが、ようは、自分がやっていることが必ずしも点数にはつながらないということです。
順位を上げたいなら、点数を出したいなら、そのために何が必要かを知る必要があります。

ここでは、思ったより点数につながるもの、思ったほど点数にならないものを対比して挙げてみましょう。

点数につながるもの。難度は低いが、質の高いジャンプ。質の高さとは以下のようなもの。
入るスピード。下りた後のチェックの流れ、スピード。踏み切りのクリーンさ。ランディングのクリーンさ。
空中姿勢のきれいさ。高さ。大きさ。チェックの美しさ。正確な軸。などなど。
逆に点数につながらないもの。難度が高いが、質の低いジャンプ。上の逆。
では、イメージしてください。
”気持ちよいスピードで突っ込んできて、きれいなカーブにのり、ほとんどエッジのノイズも立てずにふわっと
高く舞い上がり、回転こそほとんどないもののその空中姿勢はどこか堂々としていて、音も立てずに
柔らかく下りてきて、再びきれいなカーブに乗って華麗なチェックを披露する。そんなシングルサルコウ。”
”止まるかのスピードでがちがちに力が入った姿勢から、力いっぱい振り回し、氷上で半回転ぐらい回りながら
飛びあがり、空中に浮いたことが確認できないぐらい低空飛行で、軸は傾き、しかも折れていて、
その空中姿勢を一言で語ればいびつ、回転不足で刺さるように下りてきて、いかにも耐えきりました、
と言わんばかりに力ずくで踏ん張っており、下りた後横方向に滑り出すこともない・・・。そんなシングルアクセル。”
”氷上で半回転、空中で半回転、下りてから氷上で半回転。そんなシングルアクセル。”
ま、そこまで書かなくとも分かりますよね。
実際にそこまで極端なことはないでしょうが、必ずしも難易度の高いジャンプが
点数につながるわけではないということです。
実際の経験から言うと、こんなのは試合で見たことがあります。
3.0に値するシングルサルコウ(その選手はルッツがやっと)、3.5に値するシングルアクセル(その選手は
ダブル1個ぐらいしか飛べない)、2.5ぐらいにしか値しないシングルアクセル、ダブルサルコウ、ダブルトウループ、
ダブルループ、3.0ぐらいにしか値しないダブルフリップ、ダブルルッツ、3.5にも値しないダブルアクセル、
5.0に値するダブルアクセル。
もちろん、アクセルが2.5ぐらいでも試合で2.5がつくわけではないですし、3.5ぐらいのアクセルでも実際に
3.5がつくわけではないです。でもアクセルを飛んだのに3.0すら出ないのはなぜ?という質問に答えるには
これで十分でしょう。

さて、ジャンプはよく文句が出るので長くなってしまいました。次に行きましょう。

点数の出るもの。難度は低くとも、質の高いスピン(同じですね)。
質とは、回転速度、軸の安定性、軸のきれいさ、スピンポジションのきれいさ、ノイズの少なさ、
オリジナリティ、などなど。点数の出ないものはその逆。
飛んだかどうかわからないようなフライングシットをするんだったら、普通のシットを
完璧に回って欲しいとかね。

ステップ、スケーティングの場合。こちらも基本は難度と質のバランス。難しくても、滑りこなしていなくてはだめ。
よく滑れていてもスピードがなければだめ。スピードはあっても単なる力ずくで、技術の伴っていないものはだめ。
テンポは速いほうがいいが、それによってスピード、アウトインの乗りわけが死んだらだめ。
エッジは深いほうがいいが、それによって基本姿勢が崩れてはだめ。
全部を求めるのは難しいけど、一つだけを目指すのは、苦労が報われないだけだね。

次はプレゼンテーション。プレゼンは、いろんな要素で決まります。例えば、
曲との調和、オリジナリティ、姿勢とかの美しさ、見のこなしの軽やかさ、スピードの変化の使い方、氷面の使い方、
自分のスケートを見せる(魅せる)技術、などなど。
例えば手の使い方はきれいでも、手だけ動いていて、全身の動きとマッチしていなければだめ。美しくても曲を無視していてはだめ。
Maxのスピードが遅ければ変化はつけにくい。また、美しくても氷面全体をしっかり使っていないとだめ。
一番大事なのは、氷上で自在に動けなければ、自分を表現することはできないということ。
つまり、プレゼンテーションを上げるためにもスケーティング、エッジワークの技術が必要ということ。

最後に、バランスの問題。
すごくよく滑れていても、ジャンプの踏み切りやランディングがよくなければ、実はあまり滑れないと疑ってしまう。
すごくいいジャンプを1つ持っていても、他のがどれもぱっとしなければその印象は消えてしまう。
キャメルがすごく回っても、シットがあまり回らなければ、その選手の印象は、”スピンがうまい選手”
から”キャメルがうまい選手”に評価が下がる。
アクセルを下りても、ループでこければジャンプの能力を疑ってしまう。こけなくても、質が低ければ同じ。
ジャンプ、スピン、ステップ、プログラムとかのバランスについては、長所を持っていること、短所がないことが重要でしょう。
ジャンプで勝負をするなら、それ以外の要素もそれなりのレベルに到達していること。より高いレベルで争うならば、
少しでも長所が多いことが重要。その上で、特に大きな長所が必要。
そしてなによりも勝負をたくす要素は、すなわち点数を稼ぐための要素は、必ず質が高いことが絶対条件。
例えば、アクセルで勝負をするなら、そのアクセルは大きな長所、すなわち質の高いものでなければ勝負をかけれない。
スピンで勝負をするなら、そのスピンは難度の高いものではなく、質の高いものでなければならない。
ステップも同じ。
自分の長所としてアピールする以上、その質が低ければ、結局自分のスケートの質の低さをアピールしているだけ。

・・・。

全部読んでもらえれば、点数を出すのがいかに難しいか、分かってもらえるでしょう。
だからこそ、日ごろの練習の積み重ね、そしてその中で常に課題を持ち、クリアしてゆくことが大切なのです。
また、あらゆる要素は、できるようになることがゴールではなく、できるようになることがスタートだということも忘れずに。
できることの質を高めてゆくことが、ものすごく重要なのです。
3.0を出せるシングルサルコウを目指してみませんか?


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