大切な人



 君と僕とは似たもの同士で、だから一緒にいられたけれど、その為に変化もなかった。
 
 この世で一番自分が嫌いで、この世で自分が一番悪いものだと思っているから、
 
 そう思っている互いを変えられなかった。
 
 自分が信じていないものを信じろなんて、説得力の欠片もない事を知っていたから。
 
 たとえあの時全てがうまくいって、僕らが本当に目指した場所へ行けたとしても、
 
 僕らはきっと何も変わらなかっただろう。
 
 それまでのように自分が一番嫌いで、自分が一番醜いから、
 
 誰かを独占する事もできない。
 
 誰かの隣に立っていても、
 
 いつか、自分よりも相応しい相手があらわれるだろうと思っている。
 
 だから僕らは、決定的に互いをつなげる事ができなかった。
 
 
 あの日用意された小道具を、誰かが僕の為に残してくれた。
 
 僕らの情けない程のあの時の現実を、それが語ってくれる。
 
 どうして、君にとって僕が最善だと言えなかったんだろうと、今になって思う。
  
 
 今になって。やっと。
 
 
 
 今、僕は、自分よりも嫌いなものがいる。
 
 きっと、君は驚くだろう。
 
 僕が、君の知っている僕ではないから。
 
 こんな器の事なんて、君は気にかけるはずがないけれど、
 
 僕が変わってしまった事に、君は何を感じるだろう。
 
 僕は、今でも時々君の夢を見る。
 
 そこにいる君は、きっと、僕の隣にいた君じゃないと、
 
 それだけは、僕にもわかっているけれど。




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