アカデミーから帰宅する途中、夕陽が落ちるのをぼんやり眺めていた蒼牙は、後ろから追い掛けてきた足音に気付いて振り返った。
「お前って、何処見てるのかわかんない顔してるよな。」
突然そう言ったのは、アカデミーで同じクラスにいる少年だった。
これまでは、それほど親しく口を聞いた覚えもなかったが、もともと蒼牙はクラスの中から僅かに浮いている。親しく口を聞く相手など、いないも同然の事だった。
だから、面と向かってそう言われたのは、それが初めての事だった。
影で、気味の悪い子どもだと言われた事はあったが、それはいつも大人のする事で、子どもはそんな事は言わない。ただ、あいつといても楽しくないと、そうあっさり突き飛ばしてくれるだけだ。
そんな蒼牙の物思いも構わずに、少年は言葉を続ける。
「干渉力使いって、皆そんな顔してるだろ。なんでだ?」
「……見てるものが違うから。」
心底不思議そうに問いかけられ、蒼牙はそこに悪気がないのを理解した。
普通、干渉力の持ち主だと知っていると、人は避ける。だから、蒼牙は避けずに向かってきた人間は、信用する事に決めていた。わざわざ、不快な思いをするために訪れる人間は、あまり存在しないと、知っていた。
「見ているものって?」
「俺の目が見ている景色と、俺とつながってるものが見てる景色が、全部重なって見える。だから、微妙に焦点が定まらないんだと言われた。」
蒼牙の視界は、物心ついた時からこうだった。その頃にはもう、身近なものを支配下に置く事はできるようになっていたからだ。
もちろんそれは、無意識で行われていたのだが、その事実に気付いた父親によって、力の制御を教えられる事になった。
干渉力で最も頻繁に使われるのは、適当な動物を支配下に置き、それの視界を見る事で、周りの状況を把握するというものである。一般的には鳥が多い。その鳥は、珍しいものではなく、そこにいて違和感のないものを使う事は、言うまでもない鉄則だった。
蒼牙に今見えているのは、目の前に立っている少年と、森の中の木々。家の前の空き地の風景。家の近くの木立の景色。そんなところだ。
絶えず景色は重なりあって、それの何処に変化があるのかを、いつも気を払って見ている事になる。
自分の目で見ている景色が最もはっきり見えてはいるが、他の景色に変化があれば、そちらに自然と焦点が合う。
その時を周りから見ると、何処を見ているのやらわからない目をしていると言う事になるそうだ。確かに、そこにあるはずのないものを見ているのだから、その言い分は正しい。
蒼牙はそれを聞いてから、できるだけその時は目を閉じるか俯くようにしている。目を閉じれば、少なくとも景色が一つ消える事も、理由の一つではあったけれど。
「……それって、普段の生活に支障はないのか?」
「特には、ないと思う。」
「干渉力って、使う時はどんな感じなんだ?」
「人にかける時は、気持ち悪いかもしれない。」
二人で並んで歩きながら、質問にぽつぽつと答える。これまでに、あまりそういう質問は受けた事がなくて、自分の感覚を、あまりしっかり考えた事はなかったが、少なくとも、心踊る楽しい事ではないのは確かだ。
「何で?」
「……そいつの頭の中身探って、必要なものを取り出すから、変な記憶に触ったりするし。」
「変なって?」
「誰か殺してる記憶とか、殴られてる記憶とか、いろいろ。」
「……記憶を見るのか?」
「俺はね。」
蒼牙が探り当てた記憶は、そのまま対象者にも思い出される事になるらしい。
殴られた記憶にぶちあたった時、驚く程の衝撃を受ける事もあるようだと、のたうちまわる姿を見て思う事もあった。
だが、蒼牙も気を払っていないと、それに触れて衝撃を受ける事になる。干渉力は、使い方を誤れば、使い手にも多大な被害を与えるものなのだ。
「暗示とかは?」
「俺はしない。それ向きじゃないって言われた。」
干渉力にも幾つかの傾向があり、蒼牙の場合は、人の記憶に入り込む能力が強いのだが、やり方が強引すぎて、それを忘れさせようとすると、記憶全部を封印しなくてはならない程にかき回すのだそうだ。
確かに、出来上がった壊れた人々を見ると、自分がどんな事をしているのかは、わかりたくなくてもわかったが。
「ふぅん……」
答えに満足したのか、彼は暫く黙り込み、そして、手をポンと一つ打った。
「俺にかけてみろよ。昨日食べた飯の事。」
「……夕飯はおでん。」
「え?」
ビシッとでこピンを喰らわせてから答えれば、彼は驚いたように固まった。
「今、使った?」
「一瞬だけ。お前、今考えてただろ。」
わざわざ記憶から引き抜かなくても、問いかけた時に考えた事くらい見える。突然、でこピンを喰らわせれば、相手は驚いて一瞬の空白ができる。そんな時が、使い時なのだ。
「………便利なのか?これ。」
額を押さえながら問いかけられ、首をかしげる。便利ではないとは言わないが、とても便利なものでもないのも確かだ。
「真意を確かめたい時は便利かな。」
「真意?」
「好きです!って告白されて、嘘かホントか見分けるわけよ。一瞬前の決意くらい、見えるしな。」
そんな確認をしなくてはいけないくらいに、臆病になっていた頃もあっただけの事で、今はそんな馬鹿馬鹿しい事はしない。
自分で考える程、自分の事を気にかけている人間は多くはないという事に気付くのは、それはそれでなかなかに痛い現実だったが、それもおかしな話ではないと、そう思う事は出来た。
「………へぇ……」
「嘘だった時は、結構痛いぞ。こっちも。」
隠されない感情にそのまま触るのは、案外ショックが大きい。
嫌いだと口で言われる以上の悪意を感じるのだ。それでますます臆病になるという、馬鹿馬鹿しい事態に陥っていた時、やはり傍にいて安心できるのは、同じ力をもった人間だった。
今ではそれほどでもなくなったが、その頃は、そこへ逃げ込む他に、自分を守る手立てを見つける事ができなかったのだ。
だから、蒼牙は周りから浮いているのだろうと、それは理解している。溶け込もうとしない人間を、わざわざ引き入れてくれるようないい人は、それほど沢山は存在しない。
最近は、蒼牙もなんとか仲間に入ろうと、努力をはじめたところだった。
「ああ、盗み聞きした時と同じ事だよな。」
「そう。お前もあるの?」
「あるよ……あいつ、生意気だとか、ちょっと才能があるから鼻に掛けやがってとか、勝手な事言ってんのな。」
馬っ鹿馬鹿しい。と続けて、彼は足元の石を蹴飛ばした。コロコロ転がる石の行く先を追いながら、二人でため息をつく。
「才能なんだって文句たれる前に、限界まで努力でもしてみろっての。」
「……何、お前、努力の人?」
からかうように問いかけると、彼はむっつりと不機嫌そうに表情を変えた。
「才能なんてな、開発しなくちゃどうにも使えねぇのよ。」
「まぁねぇ。」
才能があっても限界がある。その限界が人より遠いから素晴らしいと褒められるのだとしても、その限界までたどり着けないのならば、その他大勢と同じ事だ。
「無い物ねだりしてる暇があったら、あるもの掻き集めりゃいいんだよ。」
末は上忍の呼び声高い彼は、そう言い放って見えない敵に拳を繰り出した。
「掻き集めるものが自分の中にないなら、何処からでも拾ってこればいい。誰かがくれるの待ってたって、そんな都合の良い事が起きるもんか。」
「……結構、お前も苦労人?」
「物凄い苦労人だぞ。俺の一番の自慢だ。」
笑ってそう答えた彼が、人生で最高の友人であると思えるようになったのは、随分後の事だった。
その日までは、自分の力の事だとか、生れた家の事だとか、そんなことをあまり嫌だと感じた事はなかったと、アカシは森の中を歩きながらそう思った。
確かに、人から避けられた事もあったし、それで落ち込んだ事もあったけれど、理解をしてくれる人はいたから、それで良かったのだ。
自分を理解してくれる人の中で、できる限りの幸せな一生を過ごすのだと、そんな事を思っていた。あまりに多くを望んで、それで何も掴めないくらいならば、できる限りのところで済ませておいた方がいいと、そう思っていた。
だから、好きになった人と結婚して、子どもを産んで、その子どもも目一杯愛してあげようと、そう思って、母に告げたアカシの決意は、思いのほか強い反対を受けてしまった。
母は、娘の願う幸せよりも、もっと大切に思う幸せがあったのだ。
その日初めて、アカシは自分の生れた家の事を恨めしく思った。
北の森を見張るのが高波家。東の森の海野家と同じ、3代続いた干渉力の使い手の家。
高波の初代は、里がまともに機能しはじめた時に、何処からかやってきた人々だと聞く。
干渉力を持つ人間は、さほど珍しいものではないが、飛び抜けている人間は珍しいとも言われている。その珍しい人間が生まれ易い家。高波、海野、早瀬、遠野、逆巻。5つの家で4つの森を見張るのが現状。
逆巻は4代、早瀬、遠野は2代続きとなる。早瀬、遠野の前は、別の家が役を負っていたが、跡継ぎがなく家が絶え、2家が新しく出来たと言う。変動起きるのは、その力の不安定さから来るとも言われていた。
干渉力とは、己の意志で他人を操る力。
忍術とは違い、印を組む事も、呪言もいらない。当然チャクラの消費もない。
但し、そういった系統立てがないという事は、必ず発動するものでもない事となる。
それは、術者の意志力に、対象者が抵抗できれば、術として機能しないという事。術者の能力が対象者に勝っていなければ、何一つとして意味がないものとなる。
もちろん、それを力として認められているという事は、まずもって、防がれる事がないという意味もあるが、けして万能ではないという面も持ち合わせているものだった。
そして、それだけに、使い手以外にはその行使が判断できない事で、疑いをかけられる事もあるのは確かだ。
目の前の人間が、自分を操っているのかもしれないと疑いを抱けば、自然その人間は離れていく。そうして離れていった者を引き止める術はない。
たとえ、表向き容認したとしても、心の奥底で、真実信じているかどうかという事は、当人にしかわからない事であり、疑われた者でさえ、その相手を疑うのだ。互いに疑いを抱いた後も、それまでと同じように過ごす事は、まず不可能な事だった。
だから、自分を理解してくれる人といたいと思う事を、その家に生まれたせいで否定される。アカシにはそれが恨めしかった。
「母さん。私、母さんが死んだら、蒼牙と結婚するから。」
任務で重傷を負って帰ってきた母に、そう告げたのは、その日の夜の事だった。
里の外れに位置するその家の周りには、殆ど家が建っていない。夜には人の気配すら稀になるその家で、床に入ったままの母と、アカシは静かに向き合っていた。
母が今回の任務に出る前、結婚をしたいと告げた。祝ってくれると思っていた母は、驚く程強くそれに反対をした。そして、説得する間もなく任務に出、アカシが知る中で初めて、怪我をして帰ってきた。
それを見て、アカシは母も何か動揺する事があったのだろうと思ったが、母を待っていた1カ月の間、いかにして母を説得するべきかを考えたものの、他の案は浮かばなかった。
「アカシ…?」
驚いたように震える声で名を呼んだ母親は、アカシの真意を探るように真直ぐにその目を見つめた。
良く似ていると言われた母も、漆黒の髪を長く伸ばしている。それが、今は乱れ、汗で額に貼り付いている。顔色は青く、生きるか死ぬかは当人次第だと言われたのは、間違いではないとアカシは思った。
そして、この姿は、いつか訪れる自分の姿であるようにも見えていた。
「もう決めたの。だから、母さんもきちんと考えて。母さんが生きている間は、許してくれるまでは結婚はしないでいる。でも、母さんが死んだら、結婚するから。」
傷だらけの手が、布団の中から引き上げられて、驚く程の強さで腕を掴まれた。
「アカシ、私は…」
「勘違いしないで。母さんが持ち直してくれるために言ってるんじゃないの。黙っていたら、騙すみたいで嫌だから言ってるの。」
大丈夫、と続けようとする母の言葉を遮って、アカシは一息にそう言い切り、その言葉に、母が顔を歪めるのを、黙って見ていた。
母を傷つけようとする気があったわけではなかったが、その言葉が母に与えたであろう衝撃も、その表情に現われていると思い、アカシは強く己の手を握った。
たった一人の肉親。兄弟もなく、父も死んだ。でも、例えば父が生きていたとしても、母の肉親は自分だけだと、アカシは理解していた。
両親は、憎みあっていたわけではなかった。でも、本当に愛しあっていたのかどうか、アカシにはわからない。それ程に、二人はあまり話をする人たちではなかった。
喧嘩もしなければ、談笑もしない人たち。それがどうしてなのか、母の留守中に話を聞いて理解した。
二人は、好きあって結婚したわけではなかったという事。父がどうであったかは知らない。だが、母は別に好きな人がいたという話だった。
しかしそれが、許されなかったと聞いた。その母が、自分の結婚にも反対する。自分は許されなかった事を、娘には許してやりたいと思わないものなのかと、母が不憫だと思うより先に考えた。
その考えが、今になって、どれ程浅ましいものだったかとアカシは理解した。それでも、自分の決意を譲る事は出来なかった。
「……アカシ…」
「私が死ぬより先に死ぬか、私が死ぬまで生きているか、私が生きているうちに許してくれるか、母さんが選べるのはそのうちのどれか。私は、 蒼牙以外の誰の妻にもならない。蒼牙が、私以外の誰かを妻にする事も許さない。もう、二人で決めたの。だから、後は母さんが決めて。」
蒼牙には、もう肉親はいない。天涯孤独の身の上だ。結婚に反対する肉親はいないけれど、祝ってくれる肉親もいない。どうせならば、祝ってもらって結婚したいと思うけれど、そうでなくても構いはしない。親の為に結婚をするわけじゃない。ましてや、里の為でもない。
「……高波の家が、消えてしまうのよ。」
「このままなら、海野の家だって消えるわ。」
「せっかく、守ってきた家なのに。」
「たかだか、3代続いただけの家よ。他の家だって、消えたわ。」
大事な家、そんな事を考えているのは、ごく僅かな人間だけだ。中忍以上の出ない家なんて、里の中には、掃いて捨てる程ある。
高波の家だって、それと同じだ。少し、特殊な力を使える人間が続いて出ただけ。あとは、そこいらの家と変わらない。もしくはそれ以下だ。
干渉力が使えると言って仕事を受けている以上、その干渉力に依って敬遠だってされる。アカシも、子どもの頃から何度も、気味の悪い子どもだと言われた事がある。
「じゃぁ、母さんは、二つ消えるのと、一つ消えるのとどっちがましだと思うの?母さんが選ぶのは、そういう事よ。」
家が大切だというのなら、その役目にこだわるのならば、母が選ぶべきものは一つしかない。
「アカシ…」
「どうしても必要な家なら、代わりが幾らでも出てくるはずよ。二つの家の仕事が一つの家の仕事になって、それがどうしても必要な仕事なら、私の子どもがそれだけの力を持って産まれてくるか、代わりに半分背負う子どもが産まれてくる。私は、そういうものだと思うの。」
さほど特殊でない力も、それが強くなれば特殊な力に成り変わる。そんな風に使えるものと判断されてきた力ではあるけれど、それがどうしても必要かどうかなんて、本当は誰もわかっていないのだ。
ただ、便利なだけ。そう思われているのかもしれないと、どうして母は考えないのかと不思議に思う。本気で、そうまでして守るべき家だと思っているなんて、考えたくもなかった。
「私は、家の為や里の為なんて理由で、自分の行く先を決めるのは嫌。でも、母さんには祝ってほしいの。だから、母さんが選んで。待ってるから。」
母と同じ任務についている自分が、いつまで生きていられるものか、もちろんそれはわからない。それは母もわかっている事だろう。
待っていると言ったとしても、明日まだ生きているかどうかもわからないのが、自分達の扱いなのだ。捨て駒だなんて言わない。でも、道具である事は確実。
だけれど、道具扱いされても自分は人間なのだ。だから、意志は曲げない。それが、アカシの選んだ生き方だった。
その母が、答えをくれたのは次の日だった。朝日が上がり、母親の様子を見るために部屋を訪れたアカシは、静かに座っている母の姿を見た。
「母さん、まだ、寝ていないと。」
部屋の中へ入り、布団の上に体を起こしている母の脇へアカシは腰を下ろし、運んできた朝食を下ろした。
「アカシ、私は、お前が生まれた日に、決めた事があるの。」
アカシの驚く表情を見つめながら、母は静かにそう言った。
「いつか死ぬ時が来るとしたら、私は、お前の為に死ぬって。……私は、高波の家が大切な家だと思う。そう思うから、あの人と結婚した。だから、その家がなくなるとわかっていて、お前を祝ってあげるのはとても辛い。でも、お前がそんなに思うなら、祝ってあげたいとも思うの。」
「……母さん?」
アカシの手を握り、母は静かに語りかける。そこには確かに、娘であるアカシに対する愛情があり、そして、家に対する愛着もあった。
「だからアカシ、私は死ぬわ。お前と同じ任務に就けるでなし、お前の為に死んであげるなんて、今をおいてないと思うのよ。」
「………母さん。」
「花嫁衣装も見たかったし、孫の顔も見たかったけど、家が絶えるのも辛いわ。お前に恨み言を言って死ぬのは嫌なのよ。」
包帯の巻かれた白い手は、いつも優しく自分の導いてくれた手だった。
父に同じ力はなく、その使い方を教えてくれたのは、母だった。自分がどんなに大切にされているかなんて、周りから言われるまでもなくわかっていた事だった。
だから、許してほしかったのだ。
「ごめんね。母さん、これだけは、譲ってあげられないのよ。お前が、蒼牙君と結婚する事を譲れないのと同じ事よ。」
「…うん。」
「幸せになるのよ。」
「うん。」
頷いて、その手を握る。母には母の決意がある事、その決意に従って、母はアカシを産んだ。そして、死ぬ。
「今日は、蒼牙君のところに行っていなさい。」
「でも…」
「ミズハさんが来る事になっているの。大丈夫よ。」
逆巻の当主を、ミズハと言う。高波と同じで、女系の家だ。高波と違うのは、子どもが必ず複数生まれる事。逆巻の血が、里に広まった事で、干渉力の使い手が現われ易くなったと聞いていた。
「明日、帰ってきて。」
「わかった。」
アカシはそう答えて立ち上がった。
「私、母さんが大好きよ。」
「わかっているわ。」
母に似ていると言われる事は、アカシにとって嬉しい事の一つだった。だから、母と同じ道を選んだのだ。母に似てくると言われる事が嬉しかった。本当に、嬉しかったのだ。
「ごめんね。」
自分は、母に死ねと言ったのだと、その時初めて、気がついた。
許してくれと言ったつもりだった。
でも、そうではなかった。
母が選ぶ道など、一つしかなかったのだ。
その夜泣きながら、やっとそれを理解した。