「俺の事は好きなんだよね。」
「おう。」
「クソジジイは?」
「じいさんは、好き。」
「母さんは?」
「お母さんも、好き。」
「親父は?」
「叔父さんは、どっちでもない、かな。」
 好きとは言い難いけど、嫌いじゃないし。とゾロは答え、俺は、今日は帰ると電話をしてきた父親の言葉を思い出した。
『ゾロは、父さんの事が嫌いだと思うか?』
 父親は父親なりに、子供に愛情を持っている。月に一度でも、ゾロに会いに行っていたのはそのせいだったろうと思う。でも、そんな親心は、この息子には通じていないようだ。
「叔父さんじゃなくて、お父さんって呼んであげたら?」
「なんでだ? 今までだって、叔父さんって呼んでただろう。」
 父親だって言ったからって今更。とゾロは言い、餃子の焼き具合を真剣に計っている。
「そうだけどさ…」
 何故、今になって、ゾロに自分が父親なのだと伝えたのか、俺はとても不思議だった。どう考えても、時期がよくわからないからだ。それで、父親を観察して気付いたのだ。
 あの父は、ゾロに『お父さん』と呼ばれたいのだと。
 ゾロは、父親の事を叔父さんと呼ぶ。俺を名前で呼ぶのは、俺がそうさせたからで、お兄ちゃんとは呼ばないけれど、よそよそしいわけじゃない。父親だけ、他人扱いなのだ。本当の家族であるのに。
 あの日から、父は家に帰る度に、某かの期待を抱いてゾロに声を掛け、『お帰りなさい、叔父さん。』という言葉を聞いて、明らかに落胆の様子を見せるのだ。
 それとなく、ジジイにも聞いてみたし、母さんにも聞いたが、やはり、俺の考えは間違っていないようだと確信した。
 それなのに、ゾロはさっぱりそんな事を考えもしないらしい。
「最初は、お父さんだったらいいなぁって、思ってたんだ。」
 火を止めて、餃子を皿に移し替えていたゾロが、満足げにそれを眺めてから、俺を見てそう言った。
「……ゾロ?」
「ガキの頃だけどな。でも、お父さんは死んだって言ったのは、叔父さんだったからな。」
「そうなの?」
「そう。だから、自分の言った事は、自分で責任取らなくちゃダメだと思わねぇか?」
 ゾロは笑い、俺は数日前のゾロの笑顔を思い出して、顔が引きつるのを感じた。
「……そうだよね。」
「だろう。」
 この子供は、わかっていてやっているのだ。何も気付いていませんという顔をして、強かに生きているのだ。それに気付いて、俺は正直ちょっと怖くなった。
 今の話は父の事だけれど、ゾロは俺の事だって、同じように観察して何らかの評価をしているのではないだろうか。たとえ、ゾロの目の前で起きた事でないとしても、ゾロに俺の行状が伝わらないなんて事は考え難い。ジジイも店のコック達も、ゾロにはやたらに好意的なのだ。俺のなんでもない行動だって、悪し様に伝えられたら、それはこの関係の終わりを意味するかもしれない。
 満足そうに笑うゾロを見て、俺はカクカクと頷き、皿を食卓へ運んでいく後ろ姿を呆然と眺める。
 
 
 
 俺の可愛い恋人は、それは不思議な生き物なのだ。

 
 
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不思議な生き物はゾロの事という事で、一応のオチをつけて、とりあえず一区切りです。サンジはおかしな生き物って事で。書いてて楽しいので、気が向けばまた続きも出るでしょうけれども。
ゾロの小さい頃は、それはもう可愛く可愛く書きたいのですが、大きくなったら、小憎たらしいくらいにとんでもない生き物の方がいいなぁと思います。サンジはきっと、それでもゾロが可愛くて仕方がないに決まっているので。(笑)

(2004.3.14)



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