獣対決!ガウ&クーン

「なんでこんなことになっちまったんだ?」
 ゲンさんは頭を抱えた。手元にあった酒もどんどん進む。
 メイレンは呆れて「そこ」を見ている。
 その目線の先には唸り声をあげて睨み合う、クーンと獣のような少年ガウの姿があった。
 
 
 時間は今より3時間程遡る。
 3人は格安だが、よく故障することで有名なリュージョンシップに乗った。まずそれが間違いだった。
やはりと言うか、運命と言うか、シップは当然の様に故障。登録すらされていない、未開のリュージョンへ不時着したのだ。
 船員は困った事に事故慣れしていて、おろおろする客達を手際良く先導する。さらに船員達は、
「一日あれば、出れますからそれまでは自由行動です」
等と言いのけたのだ。
 しかし、見渡す限り草と地平線と見た事も無いようなモンスターしかいない所で何をしろと?乗客は皆そう思ったが、そう思わない者が約二名程いた。
 酔っぱらいとケダモノだったりするが。
「だっておもしろそうだろ?」
酔っぱらい=ゲンさんはそう言って外へとすたすた歩いて行く。もちろん、右手に日本刀。右手に清酒は忘れない。
 その後をちょろちょろと人なつっこそうなケダモノ=クーンがついて行く。
 やや遅れて、女性=メイレンがやれやれといった表情でついて行った。
「もう!あんたたちっていつもそうなの!?」
メイレンはややご立腹だったがそんな事を気にする二人では無い。
「まあまあ、いいじゃねえか。タンザーの時よりは気楽なんだしな」
そう言ってゲンさんはそのまま近くにいたモンスターを斬り倒した。
 クーンはクーンでもの珍しいモンスター達をきらきらした目で眺めている。
 その時、ふとクーンの表情が変わった。
「?どうした」
ゲンさんがクーンが身構えている目線の先を見たとき、そこに一人の少年が立っていた。
 その少年はクーン達をじっと見つめこう言った。
「オレ、ガウ。おまえらなんだ?」
クーンはどこか不自然なシチュエーションをものともせずにこう返す。
「僕クーン。そっちはゲンとメイレン。あそこの船から来たんだよ」
クーンはシップのある方を指差す。
 ガウはふーんという顔をしてそのままクーンに言った。
「おまえつよい。オレとたたかえ」
「はあ?」
先に反応したのはゲンさんだった。
「何言ってんだ?このガキンチョ。つーか……」
ゲンはクーンの方を見る。
「あれ?何だ?犬ころの親戚か!?」
「違うよ。でも人間かな?」
クーンはガウの方を見つめながら言った。
 ガウは、心外な事を言われたのか、妙に憤慨している。
「ガウ、人間!怪物チガウ!」
ガウは続けて、
「つよいやつと戦うと、オレそのわざ、おぼえる!おまえつよそうだから、オレと戦う!」
と言った。
 今まで沈黙を保っていた。と言うよりは呆気にとられていたメイレンは、ここでようやく我に帰ってガウに説明をした。
「何かこの子、相手の技を覚える事が目的みたいね。見たぐらいでガウの技なんか、使えるとは思えないけどどうする?クーン」
クーンはメイレンの説明に納得したのか、妙に元気良く頷きながらガウに向かって話す。
「そういう事ならいいよ。たたかってみる?」
ガウは大きく頷いて、さっと構えた。そしてそのまま、いきなり体当たりをかました。
「うひゃあ」
もろにクーンはそれをくらい、3メートルほど吹っ飛んだ。
「いてて……。なら」
なんとか、そのまま立ちあがったクーンはそのまま強酸を吐いた。
 するどく飛ぶ液は、ガウの体をかすめる。
「アチチ!」
ガウは思わずコミカルに飛び跳ねた。
「こっちも飛ばす!」
ガウはそう言い放ちながらビームを打った。
「!」
「!」
ゲンさんとメイレンは信じられない物を見てしまった思いで一杯になった。
「い…今。なんか飛ばなかったか…?」
「う…うん……」
そんな事はおかまいなしに、クーンはグライダースパイクを放つ。
「がう!」
ガウはそれをくらって転げまわる。
「う〜。なら」
ガウはすかさずミサイルを出した。
 ゴゴゴゴゴ。
「へ?」
思わずクーンの動きも止まる。
「な、なに?」
ゲンさんは目が真円を描いた。
 ドゴム!
 ミサイルは動きが止まったクーンにもろに当たった。
 黒煙の中、クーンはよろよろと立ちあがりながらガウを見つめる。
 ゲンさんはあごが極限状態まで開いている。
「どっから出た?あのミサイル」
「……よ…よくわかんなかった……」
ゲンさんは手元の酒をぐびぐびと飲む。飲まなきゃやってられない。
 一升瓶を一気に半分ほどにしたゲンさんは思わず呟いた。
「で…でたらめだ」
 そんな呟きなど意にも介さずガウとクーンは唸り声をあげて対峙している。
「つ…つよい」
「ううぅ」
二匹とも今度は仕掛けず、待機している。
「つ…次で決まる」
ゲンさんは固唾を飲んで行動を待つ。
「なにがどうなってるの?」
メイレンは頭が混乱している。
 その刹那。
「タイタスウェィブ」
クーンが凄まじい振動波を放つ。そこへガウは割って入る。
「ネコキック!」
ガウの渾身の蹴りが衝撃波を突き破り、クーンにクリーンヒットした。
「あう!」
クーンはそのまま、転がり倒れこんだ。置き上がる気合はもう無いようだ。
「ガウかった!」
ガウの宣言する通りこの闘いはガウの勝利で終わった。
「なんかいいわざ、おぼえた!」
 すっかりオレンジになった太陽を背にガウは歓びの声をあげた。
 
 
「いてて……」
 夜もとっぷり暮れた頃、クーンは目を覚ました。
 体のあちこちがまだ痛いので、とりあえず毛繕いなどをしてみる。
 傍らにいたゲンさんにクーンは話しかけた。
「すごい人だったね。ガウって人」
ゲンさんもそれに大きく頷く。
「全くだ。あの獣小僧、なんか恐ろしく強かったな」
「このリュージョンってあんなのばっかりなのかしら?」
メイレンが割って入る。
 三人はこの世界の住人の姿を想像してみた。
 そして、三人は一瞬にして嫌な想像をしてしまった。
「あ〜。やだやだ。こんな所からはさっさと出てしまいていな」
「あんなのが世界中に一杯いるの?」
「でも、ちょっとおもしろいかも」
それぞれが、それぞれの感想を抱きながら夜は一気にふけて行った。
 
 
「さあ皆さん出発しますよ〜」
添乗員は慣れたもんだといった感じで叫んだ。
 乗客達はそれに従い一斉に船に乗り込む。
 ゲンさんはシートに腰掛けながら呟いた。
「よくわかんないリュージョンだったな……」
「…そうねぇ」
メイレンも相槌を打つ。
 クーンは黙って外を見ていた。
 ふとその時、
「あ、ガウだ」
クーンは窓の外を指差した。
 その先にはガウが立っていた。なにやら遊び足りないといった顔をしている。
「出発」
声が響いた。
 船はゆっくりと浮かび上がった後、一気にスピードを増し、あっという間にリュージョンから離れていった。
 ガウは船が消え去るのを確認し、そのまま背を向け去って行った。
 三人もリュージョンから完全に離れたのを確認するとそれぞれのイスに横たわった。
 こうして二つのケモノは出会い、ひかれ、闘い、別れた。
 そんな事とはおかまいなしに、草原はいつもと変わらず風に揺られていた。
 
 
                      完 

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