の彼女と彼女の彼

 その日。
 彼は言った。
「出かけよう」
 彼女は言った。
「今は乗り気じゃないの」
 すごく簡単に。簡単に。
 
 
 彼は、
「いつも君はそう言うんだ。もしかして、君は僕の事が嫌いなのかい?」
などと叫ぶ。
 勿論、それはとても言ってはいけない言葉だから、彼女をとても怒らせた。
「そう言うあなたは何なの!?あなたこそ、私の事嫌いなんでしょ!」
と言って、すっかりふててしまった。
 お互いがすっかり言ってはいけない言葉を出してしまったせいで二人の仲はすごく簡単におかしくなってしまった。
 彼は怒って、
「もういい!」
と言い捨て、出かけてしまうし、彼女は、
「勝手になさいよ!」
と背を向けて、TVなんかを見たりするのだった。
 彼は自分のアパートを背に取り敢えず外をぶらぶら歩く。
 彼女は彼のアパートで、横になる。
 彼は歩きながら、
「なんであんな奴と俺は付き合ってんだ」
と、毒づいた。
 彼女は、
「全く怒鳴ればいいと思ってるのかしら?ふざけた男」
と、嘆く。
 彼はどこに行くあてもある訳でも無いので、公園なんかに行ってみる。
 公園ではすっかりのどかな風景が広がっていた。
 そういえば、今日は久しぶりに晴れた日曜日である。
 彼は、その平和な様子を何するでも無く、ぼんやり見つめた。
 彼女はずっとこうしてても仕方ないとわかってはいたが、動くタイミングも外してしまったのでそのままTVを見ている。
 内容の無いTVだな。等と思いながら彼女はちらりと時計を覗いた。
 2時なんだ。
 彼女はそのままTVを眺めた。
 それから。
 少しばかり時間がたった。
 公園ではぼちぼちと人が減り始めている。
「そういえば今何時だ?」
 彼は呟きながら腕を見たが、その時初めて時計もせずに外に出た事に気付いた。
「ばーん、て出ちゃったもんなぁ」
彼はそう言いながら公園の時計を見る。
 5時か。
 彼はゆっくりと自分の家に足をむけた。
 彼女は、ろくに頭に入らないTVから目を離し、時計を見つめた。
 5時か。
 彼女は重い腰をゆっくりと上げた。
 彼は自分のアパートの前に立った。
 自分の部屋からは明かりが見える。
 彼女だ。
 自分の部屋からは秋刀魚の匂いがする。
 彼女か?
 彼は急いで自分の部屋に上がりこんだ。
 すると、彼女は、
「あ、おかえり」
等と平然と言ってのけるものだから、彼はひどく拍子抜けする。
「喧嘩したのって、確か……3、4時間ほど前だよな?」
彼は間抜けな質問を彼女にする。
 彼女は、
「そーよ。で、それがどうかした?」
とあっさり返す。
 彼は、かなわんなと考えながら、昼のことを謝ろうとする。
「あ〜。昼はごめんな」
「なにが?」
「え?」
確かに何がごめんだろう。彼はひどい事言ったとか、一人で出て行ったとか、考えてみたが、むしろお互い様じゃないか。と考える。
 そう考えた時、
「ごめんね」
彼女は突然耳元で囁いた。
「はは……」
彼は乾いた笑いを思わず浮かべながらへたりこんだ。
 あそばれてるなぁ。
 ……………。
 まっいいか。
 彼はそう思いながら秋刀魚をぱくりと食べた。
 
                   END 

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