カリスマ
その男は人気者だった。 男が少しばかり外を歩こうものなら、街行く人々は振り返り声をあげる。奇声と言ったら良いのだろうか。とにかく物凄い声をたてて、男を追いかける。 男はそうなるのがとても嫌だったが、悲しいことに慣れてしまっているので、ひょいと軽快な足取りで逃げる。 追いかける側はそれになんとか追い下がろうとするが、10分程で何とか諦めてくれる。 向こうも何かと用事もあるだろうに。 男はいつも追いかけられながらそう思うが、追いかける人々はそんな事はまるでおかまいなしだ。 男はなぜ自分がこんなに人気者であるかはわからない。 TVやラジオ、雑誌に出てる訳でも無い。 何か大きな事をしでかした訳でも無い。 決して謙遜でなく、自分が容姿や頭が優れている訳でも無い。 ただ人気がある。それもいつの頃からは良く思い出せないがかなり小さい頃からだ。 結構前だったが追いかけてくる人になぜ追いかけてくるか。聞いた事がある。 するとその人は、 「あなたは世界で一番素敵なの」 と言い、男が理由を聞いても、 「素敵なのに理由なんか無いわ」 と、あっさり断言されてしまった。 男は正直外に出るのはとても嫌なのだが、だからと言って全く外に出ずに生活するのにも無理があるので、仕方なく出かける。 そして黄色い声の集団が追いかけてくる。それだけならまだしも、男は野太い声の集団にも人気があるものだから始末が悪い。 なんとかしてくれよ。と男はいつも思うが誰が何とかしてくれるのだろう。 病院に行ってみたりもしたが、医者は、 「人気者、結構じゃないですか」 等と言ってまるでとりあってくれないばかりか、逆に迫ってきたりした。 男は人気者ではあるが孤独だった。 これは何かの罰では無いだろうか。男はそう考えたりするが、誰が男を罰してるのかを考えると思い当たる節などまるで無いし、大体こんな回りくどい罰などあるだろうか。よってその考えは却下される。 そうこうしてる内に男はどんどん考えが暗くなり、定期的に家に篭って外に出なくなる。 しかし、そうなると今度はあちこちから見張られてる気配が絶えなくなり、結局そのプレッシャーに絶えれなくなった男は外に出かけてしまう。 ここ何年かはその繰り返しを続けていた。 そろそろ限界だ。 男はそう考えていた。 なにせ、24時間ほぼ全ての時間において、男は誰かかしらの視線や声などのプレッシャーを受けているのだ。こんな事がいつまでも耐えられるはずがある訳ない。 何とかしようと男はTVの人気番組を見て対策を考えていた。 TVの人達は楽しそうだ。男はもうTVの人気者が羨ましくて仕方が無い。なぜ人気がある事にたえられるのだろうか。なぜ人気を得ようとするのだろうか。男にはそれがわからない。 しかし、わからなくとも自分の出すべき答えは見つけた。 TVの人気者はこう言ったのだ。 「目指すは世界ですね」 そこからは早かった。 今までは封じ込めておいた自分を出すだけで事はあっさり進んだ。 どうせ一人なら世界の中の頂点の一人になれば良かったのだ。男は開き直っただけで世界を制した。 結果を出すのに理由はいらなかった。 魅力と言うのはこの世で最高の武器なのだ。 END |