レストラン
その国道沿いの廃屋のレストランには「出る」という噂があった。 当時、まだ怖いもの知らずであった私と友人は、肝試しだ。等と言ってそこに深夜遊びに行くことにした。 それは、数年立った今でもその判断が間違いだったと激しく後悔している。 車の免許を取りたてだった私は、こういった深夜のドライブがとても楽しく、どんな理由でもあればすぐそこに行っていた。人通りの少ない田舎に住む私にとっては、それが間違い無く当時最大の娯楽であったのだ。 友人は、近所に住む小さな頃からの縁でよくいっしょにいた相手だった。 その日も友人が、どこからか聞きつけてきた廃屋の話を私に話し、なら行ってみようと決めたのだった。 通る車もまばらなその国道は所謂「寂びれた街」の色を強く現し、ひっそりと静まりかえっている。 その日は特に車も少なく、その場所に辿り着くまでに見た車はほんの2、3台だった。 時計の針が十二時をしめす頃、そこに着いた私達は早速車を降り、そのレストランの前に立った。 そのレストランは出るという噂が立つのも無理は無いと思わせる佇まいで、あちこちにぼろが出ている。大きな窓はほとんどが割れて、大きな破片が無造作に散らばっている。屋根の方も誰が開けたのかぽっかりと穴が開いている。駐車場等は誰も手入れする者などいないから、草が伸び放題だ。 半開きになったドアから私達は少し腰が引けながら入ることにした。 ギィ。 重い、暗い音がドアを押すと鳴った。 「雰囲気あるよなぁ。変な気配までするよ」 と、私が友人に話しかけると、友人も、 「そうだな」 とぽつりと返してくるのだった。 この時に、その変な気配を察して帰っていれば良かったのだ。 しかし、私達はそのまま奥へと進んでしまった。 やや奥に進むと、うっすらと暗い中からカウンターが見えた。 そこには何かのいる。そんな気配がした。 私は恐る恐る懐中電灯をそのカウンターに向けた。 何も無い。 少しほっとしながら私は隣りを向いた。 すると、友人が真っ青な顔をして立ちすくんでいる。 「どうした!?何かいたのか!?」 私はあわてて聞くと、友人は、 「わからない……。ただ、厨房の方で何かが動いた感じがした」 と言った。 私は、思わずぞっとしながら、厨房の方へ光を向ける。 いる。 何かいる。 私はゆっくりとすり足をしながら厨房へ向かった。友人もそれに続く。 そろり、そろりと、私は厨房を覗いた。 真っ暗だ。というより、真っ黒だ。何も見えない。 私はなぜかその時、足を前に踏み出し、その状況を確かめにいった。 そこが一番いけなかったのだ。 足を踏み入れ、厨房の中心ぐらいに入った時、それは落ちてきた。 私の頭に軽いものがぴたりとついた。 私は、ひっと声を上げながら、落ちてきたものを確かめる。 それは動くものだった。 足は6本。節足動物で、黒く、かさかさと音をたてるもの。 私は自分の血が一気に遠ざかる音を聞いた。 それと同時に、黒い壁が動いた。 黒かったのは、壁でなく、「それら」が一面にはっていたのだ。 ガサガサガサガサガサガサガサガサガサ。 騒音と言ってもいい大音量でそれらは動き、一斉に私達に向かって飛んできた。 私達はそこから少し幸いなことにその後の記憶が飛んだ。 翌朝、私達はレストランの前で倒れているのを通り掛かりの人に発見され、そのまま病院へと運ばれた。私達が正気を取り戻すまでには一週間ぐらいかかった。いや、よく取り戻せたと言うべきか。 それから私達は、肝試しという言葉と、廃屋と、レストランという単語には反射的にひきつけを起こすようになってしまった。 世の中には行ってはならない場所がある。知ってはならない事がある。 私と友人は、それを身をもって知ってしまった。 私は後悔する過去を持っている。 終 |