いつか隣に並ぶ日を



 格闘士の実技試験を見た後、ゾロはサンジを連れてビルを出た。
「外に出ていいのか?」
「今日は、試技が終われば帰っていい事になってる。」
 ゾロは軽くそう答え、サンジは意外に日々の鍛練は少ないものなのかと驚かされた。
 サンジは、毎日恐ろしい程の量のトレーニングを積む事だけを考えているのが、闘技士のあり方だと思っていたのだ。世間一般の考え方もさほど変わらないのではないかと思う。でなければ、剣を振り回したり一撃で相手を吹き飛ばすようなパンチは繰り出せるはずがないと思うではないか。
「試験日は何もできないから、試技担当と試験官以外は本当は出て来なくてもいいんだ。来ても構わないから、結構見に来るけどな。」
 あの後サンジが連れていかれた格闘士の試験を見られる部屋には、数人の闘技士が集まっていた。
 いずれ自分の対戦相手になる人間だと思えば、見ておきたいと思うものなのかもしれないと思ったものだが、それが間違っていなかったという事だろう。
「じゃ、飯食ってから、買い物に付き合えよ。」
 昨日買った食材は、ルフィの限度知らずの胃袋に殆どが納まってしまい、買い出しが必要な状態になっていたのだ。一人で行くのでは、荷物を持って部屋へ上がるの大変だと思っていたところだ。持ち手がいれば、余分に買っておく事もできる。
「ルフィには、我慢ってものを教えるべきじゃねぇのか?」
「あいつには、あれくらいの量が必要なんだよ。」
 ゾロは苦笑を浮かべてそう答える。
 ノースコロニーで会った時から、ルフィの食欲には驚かされたが、流石にゾロやナミは慣れているのか、昨日の様子を見ても顔色一つ変えなかった。
 ルフィの体つきを見ても、それ程大量の食事を必要とするようには見えないのだが、どうにも燃費の悪い体質だという事なのだろうかと、日が経つに連れて諦めを感じたものだ。
「ルフィとの付き合いは長いのか?」
 この二人の関係もよくわからないとサンジは思う。
 親しさの度合いから見れば、かなりの長い付き合いかもしれないとは思うが、それ程でもないかもしれないと思わせるぎこちなさが時折見える。
 と言っても、ルフィの発言はかなり感覚に依るところが大きいようで、シャンクスですら時々意図をはかりかねている時があるのを見ていたから、それも仕方のない事なのかもしれないとも思うのだが。
「短くはねぇが…7年ってとこか…」
 それまでは話にしか聞いた事がなかった。とゾロは言う。
「意外に短いな。」
「シャンクスと会うようになってからの付き合いだからな。」
 ゾロは言って、闘技士会館近くの店に入っていく。
「シャンクスはベックマンさんのパートナーなんだろう?」
 ベックマンとゾロの親しさを見ていると、そのパートナーであるシャンクスとの付き合いが7年というのは短いのではないかと、サンジは思う。
 シャンクスの話し方からして、随分幼い頃からの知り合いなのだと思っていたのだ。
「ベンが俺の保護者になった時に初めて会ったんだ。それまでは、あの家に行った事もなかったし。」
 色々気にして、呼ばなかったらしいけど。とゾロは言い、空いた席を探して席に着く。
「あの家って、シャンクスの家か?」
「そう。俺が引っ越したくない、つって駄々捏ねるまでは、あそこに住んでたんだ。」
 そう言えば、ゾロの保護者が叔父である事の理由を聞いていなかった。と、サンジは気付く。
 保護者が親でない理由は、親がいない事以外にないのだという事に、今更ながらに思い当たった。
 ゾロが自分の暮らしていた家から出ていくのが嫌だと言ったとしても、未成年者は家を借りられない。保護者がそこへ移る事に同意しなければ、その家に暮らし続ける事は無理だ。だから、ベックマンはそれまで暮らしていた家から出ていったという事なのだろう。
「俺も成人したし、帰ればいいって言ってんだけど、まだ独り住まいは危ないからとか言うし。」
 自分の好きなとこに住めばいいのに。とゾロは小さく呟く。
 昨日、闘技士の事情を聞いていなかったら、今の言い分を聞いて、過保護な保護者だと思ったかもしれないが、この独り住まいの危険というのは、強盗だとかそういうものを差しているのだと理解する。
 勿論、昨夜の様子からして、過保護気味なところがある事は確かだが、ただそれだけでもないという事だろうか。
「だから、ベックマンさんの部屋があるのか。」
 いつか帰る予定があるから、そのままにしてあるという事かと、なんとなくあの二人が微笑ましく感じてしまう。
「シャンクスも、呼び戻せばいいのに。」
 メニューを開いてゾロはさっと注文を済ませてしまい、サンジは慌ててそれを覗き込む。
「でも、あの二人って…」
 今し方、パートナーだと言ったが、それは仕事のパートナーと言う意味だったのだ。だが、よくよく考えればそれは、また違う意味も含むのだとサンジは気付く。
「今回はちゃんと言ったのかな…」
 ため息混じりにゾロは言い、サンジはこの二人の親子の関係を、自分は勘違いしていたのだと気付かされた。
「シャンクスの奴、旅行に出かける度に、今回こそプロポーズするって息巻いてる癖に、結局一度だって言ったためしがねぇんだ。」
 だから、ルフィを引き取る時に結婚しちまえばよかったのに。とゾロは言い、サンジにメニューの説明をしてくれる。
「イーストコロニーって、多いんだったな…」
 同性結婚は世界的に認められているが、サンジの育ったノースコロニーではかなり稀だ。町に依っては、未だに異端視される所も少なくはない。サンジもどちらかと言えば、同性結婚に関してはあまり歓迎しないところがあった。
 噂でイーストコロニーはその辺りに寛大だとは聞いていたが、こうして普通に語られてしまうと、やはり違和感を感じてしまうサンジだった。
 
 
 
 
 
 買い物を終え、タクシーに荷物を運び込み、行き先を選ぶ段になって、サンジは目的地が探せずに首を傾げた。
「なぁ、あそこ、なんてビルだ?」
 社名の付いたビルかと思ったのに、それらしきものが一つもないのだ。
「赤髪運送第一社員寮。」
 後ろの荷台に荷物を積み込んでいたゾロから返事が帰り、サンジは思わずそちらを振り返る。
「赤髪運送?」
「そう。ビルの名前って後から変えられねぇらしいぜ。」
 戻って来たゾロが手慣れた様子でコンソールを操作する。
 サンジは祖父がシャンクスを赤髪と呼ぶ理由はこれなのかと納得しつつ、なんともベタなネーミングだと思わずにはいられなかった。
「社長が赤い髪だから?」
「新参が名前を覚えてもらう為には、って付けたらしい。俺は、こっちの方が好きだけど。」
「……まぁ…好みは人それぞれだし…」
 漢字を多用するのはイーストコロニーの特色だが、サウスコロニーなどでは稀だ。違和感なく世界的に広める為には、改名も仕方のないと言う事なのではないだろうか。
「色々あるんだろうけど…」
 昔なじみは結局、赤髪運送と呼んでいるのに。とゾロは小さく呟く。
「運送業だけやってるわけじゃないんだから、名前変えてもおかしくないんじゃねぇの?」
 従業員2名の弱小運送会社から始まったとは聞いていたが、最初から今の名前なのだと思い込んでいた。
「そうだけど、今の名前も格好悪いと思うんだけどな…」
 なんかこう、もっとあるだろうよ。と、ゾロは小さく呟いた。

 
 
 
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シャンクスの会社の昔の名前を出したくて仕方がなかった。
まぁ、あの二人は当然そういう関係なわけです。その辺の事はまた次のお話で。

(2005.10.27)



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