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偏愛の才能

(9/3 1998 〜 )

心の琴線に触れた作品たち
あまりジャンルにはこだわらず……。

BEAST of EAST(comic/山田章博/1997?-)

 開いた口が塞がらない。
 山田章博『BEAST of EAST(1)』を買った。そして本を開いて30秒後、冒頭の状態に至った。10世紀になるかならないかの頃、王朝時代の日本を舞台とした伝奇絵巻。だから勿論出てくるあの人に加えてこの人やその人、かの人まで入り乱れ(誰々かは敢えて触れない。読んで驚き、そして願わくば贔屓の役者にするよう、喝采を送ってやって欲しい)目眩くモノガタリを紡ぎあげる。虚実のあわいに立ち上る伝奇を見事に成立させる筆者のバランス感覚は素晴らしいと言うほか無い。げに、物語のリアリティとは下らぬ辻褄合わせなどではなく、このようなものを言うのだ。
 華麗を極め洗練を極める画については山田章博ブランドってことで、いまさら一色ごときが触れるまでもないことだろう。とにかく老若男女、濃い人も薄い人も、都に住む人も鄙に住む人も、外人もそうでない人も、ぜひ買って読んで魂を振るわせて欲しい。現代のこの国のコミックの辿り着いた、最も先鋭で絢爛たる花なのだから。

 ただ、一色は同時に澁澤龍彦『ねむり姫』を読んでいた所為で頭の中が少々すごいことになってしまった(笑)。尤も、これはこれでさすがの一冊。贅沢な素材に、それ以上に贅沢な調理を加えてしまう澁澤話法を堪能できる筈。
 稲垣足穂の小説は薄荷煙草をくわえるようで澁澤龍彦の小説は宝石のようなドロップ(いや、ドロップのような宝石?)を舌の上で転がすよう。どちらも不意に口寂しくなって、読みたくなる。


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