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ものづくし

(12/29 1997 〜3/6 1998)

もの (material) にまつわる憶い出いろいろ
漸く山場を越えて次の山が見え隠れしているような平穏な日常(本当)!

1997年ベストコミック(12/29 1997)

 1.大日本天狗党絵詞(黒田硫黄)
 2.不機嫌亭漱石(関川夏央+谷口ジロー)
 3.魔方陣グルグル(衛藤ヒロユキ)

 の三作が一色にとっての今年のベストコミックやね。
 一位の『大日本天狗党絵詞』については一片の留保もエクスキューズも要らない、画、テクスト、演出の三位が一体となった完璧なエンターテインメント。出来ることならこんな小さな(笑)栄誉なんかでなく、もっと広く認知された賞を受けて欲しい、受けるに値する作品だと心底思う(単行本ももっと売れて欲しい(笑))。語弊のある言い方かもしれないけど根本的に綺譚=馬鹿話であるところが好ましいのだ。
 二位の『不機嫌亭漱石』は漸く完結した『「坊っちゃん」の時代』五部作の最終巻。この巻では夢と現実とを往還する展開の中で、漱石の夢の感触を見事に表現する関川、谷口両氏の円熟の語法が素晴らしい。中でも『三四郎』の一挿話に基づいた『あなたは画だ』という章は、古のバブルの時代に端を発する12年という歳月のもたらした一雫の至福の甘露と呼ぶべきものだと思う。
 『ブル田さん』『羊のうた』『狼の瞳』『ヴァーチャファイター2 テンストーリーズ』といったところも考えたのだけど、三位には結局『魔方陣グルグル』を推すことにした。最大の理由は、先にも書いた通りこれがまさに子供に向けて描かれたものであるという一点。まぁ一色がスラップスティック好きだってのもあるけどね☆
 あと、この件についてはみさとさんからは冬目景『羊のうた』と鶴田謙二『Spirit of Wonder』、敦さんからは『中華一番』という意見を頂いています。ほかに思うところのある人はメールくださると嬉しいかも。

 で、唐突に就職活動情報コーナー(どんどんぱふぱふ)。
 相変わらず資料請求葉書を書いています。今まで100枚ぐらい書いたのだけど、まだ机の上には60枚ぐらい残っていて結構ブルーな気持ちになったりして★ 資料請求した業種をざっと挙げると、化学、繊維、製紙、食品、ガラス、その他材料、エネルギー、製鉄、その他金属、電機、情報、通信、印刷、ゲーム……って、後ろに行くに連れて専攻(化学工学)から果てしなく掛け離れていくあたりなんとも言えん。そうこうしてるうちにも不二熱学、JR九州、ビーイング、日本IBM、日立金属と言った企業からは既に資料を送付していただいたりしてなんとか今年中には一通り書き上げておかなきゃなあと思う。というか自主的に締切りを決めとかなきゃ冬休みは葉書を書いてるうちに終わりかねんぞぅ(笑)。

拾遺(1/17 1998)

「12の月の中で1月は一番嫌いだ」
 誰かが呟いた。もしかしたら、俺自身の声だったのかもしれないけれど。

 m氏の推奨本、ナカタニD.『にくげなるちご』を読む。
 昭和43年、まだ“オーパ”も“ポートピア”も無かった頃、海と山とに挟まれた港町でのお話。綿菓子のような記憶の断章がたまらなく胸を引っ掻く。黒目がちな女の娘でむっちゃええ話であまつさえちょっとえっちなコミックを読みたい人には好適だろう。

 前回の補足。
 1997年ベストコミックはその後、中さんから『真夜中の弥次さん喜多さん』『ピンポン』『大日本天狗党絵詞』の三作。よしみさんからは『羊のうた』を挙げていただいています。んー、『羊のうた』強し。相変わらずこの件に関しては募集中ってことで。
 就職活動の方はその後資料請求葉書は一通り出しおわり、資料自体も日本写真印刷、タキロン、ジャパンゴアテックス、宇部興産、ジャステック、住友金属鉱山、三菱レイヨン、電気化学工業、日商エレクトロニクス、SNK、ライオン、アサヒビール、日本原燃、富士ゼロックス情報システム、JR貨物、日本製粉、キャダムシステム、中央コンピュータシステムと言った企業から送付していただいた。こっちの方も当然情報(タレコミ?)募集中ね。
 あ、追加(笑)。今日更に日本原子力発電、日本油脂、山村硝子、大塚商会、富士紡績からも送付していただいた。

 年が明けて1月10日前後にアクセスカウントが40,000を越えたようです。感謝、感謝。

「己の護るべきものはいったい何か?」
 また、声。

静かな生活(2/18 1998)

 既報のとおり、無事進級確定しました。というか、今年度は試験受けた科目全部通ったんじゃなかろうか(まだ四科目ほど未確定)。やるな俺。
 で、ここんところ嘘みたいに平穏な日常を送っています。どれくらい平穏かというとここに書くネタが全然ないくらい(汗)。尤も折角の休みを無駄に過ごしてもしょうがないので映画一本と展覧会二つと本三冊ぐらいはせめてノルマとして自分に課しておきたいよね。三月に入れば結構、企業のセミナーなんかもブッキングされてきたりで自堕落に過ごすわけにも行かないから、それまでになんとか。ま、平穏とはいっても時々は小さな嵐が吹いたりもしてるんだけどね(牛乳飲んだりして……違うって)。

 ここに書く機会を逃してたんだけど、昨年末ぐらいに、『三四郎』と『それから』をちょっと再読していたことがある。別に理由なんかはなくて、三年周期ぐらいで無性に(特に『三四郎』を)読みたくなるときがあるのだ。
 『三四郎』は俺にとって墓まで持って行く本の筆頭として挙げられる。自分の血液の何割かはこの作品の色(淡いペパーミントグリーンだな。実験器具の硝子のよう透明感のある奴)に染まってるんじゃないかと言うぐらい、とにかくすごく好きなのだ。読む度に新しい発見があるのだけど(それだけ読みが浅いのかも)、今回の最大の発見は小川三四郎と今の自分とが同い年だということだった(笑)。結構これが笑い事じゃなくて、当時試験を前にして潰されそうになっていた自分にとって、女の娘の笑顔と同じくらい大きな心の支えとなったのだ……やっぱり他の人にとっちゃ笑い事かな(^_^;。ほかに今回気付いたのは作品中郵便がまるでこんにちの電子メールのような用い方をされていること。これについては何処かで誰かが書いていたような。あとはなんと言っても文章の綺麗なところだよね。引っ越しのシーンに代表されるよう、薄い絹を通して世界を眺めるようなロマンチックさ、言い換えれば初夏の光の粒子のようなもの、に溢れている。
 世界に対して開かれ、どんどん拡散していくかのような『三四郎』にたいして、『それから』は舞台劇のよう、あくまで閉じられた物語という印象を受ける。文体もまた『三四郎』とは一線を画した筋肉質なもので、一人の知識人の陥る、限りなく喜劇に似た悲劇を描くに相応しい表現だと感じた。この作品を嚆矢として以後、漱石は「自分の過去に復讐される男」というモティーフに偏執的なまでにこだわり続けるわけだけど。
 両作品を通読して感じたのは、どちらも金銭問題が物語をつき動かす大きな力になっていること。漱石自身にとっての抜き難い信念だったのだろうか、それもまた今の自分に少しシンクロしたりして。

 なんでこんな話になってしまったんだろ? でもたまにはこう言うのもね。

南風譚(2/27 1998)

 この22日から24日にかけて母方の実家に墓参りに行ってきた。
 母方の実家というのは熊野灘に面した港町なのだけど数年ぶりに訪れて、やっぱり人の住むところには海が無けりゃならんと再確認してしまう。南風が潮を含んで吹き来るだけで、光は屈折率を変え世界は彩度を上げるのだ。魚を山ほど食べて(鰤の刺身の美味しかったこと!)、やたら幸せな帰省となったのだった。
 「忠」の字で始まる戒名は、かつてこの国にも戦争があったことを知らしめる。そんな墓の建ち並ぶ墓地で柄杓から注いだ水が祖父母の墓石をなみなみと濡らしたとき俺の中に、ある種の感情と一緒に、直感的な美しい、という気持ちが湧き上がった。それはどうにも説明し難い感情の閃きではあるのだけど。

 そして家に帰ってくるなり25日、就職活動を始めて以来始めてのセミナーに行った。
 栗本鐵工所とオムロンソフトウェアのやつ。栗本鐵工所のは学生数が10人と小規模なものだったのだけど、機械系、金属系、化学系、化工(わし)の学生と結構バラエティにとんでいて、なおかつ話を聞いて最も心に留まった箇所、というのがそれぞれの立場で微妙に異なっていたのが妙に可笑しかった。因みにわしはごみ固形燃料化施設の話に最も心ひかれた。やっぱり化工だからどうしてもこう言うプラント技術の方に興味を覚えてしまうね☆ また中小規模のごみ焼却炉がダイオキシン汚染の元凶になりかねないということで廃止されつつある現在、こう言った技術は今後もっと必要とされてくるのではないかと思う(受け売り)。対してオムロンソフトウェアのは日経主催で、場所もリサイタルホールということもあり、学生も500人ぐらいは来てたんじゃなかろうか。ここではプログラマとSEの相違がやっと判明したのが最大の成果だった(笑)。
 しっかしセミナーがこれほど疲れるものとは思わなかった。主に気疲れなんだけど、もぉ身体中ガクガク。セミナーでこのていたらくなら、これからの工場見学〜選考試験〜面接なんてどうなることやら、気が遠くなりそう。

日々是日常(3/6 1998)

 何だか身辺のあちこちで大波乱の大嵐が吹き荒れているようで、これも俺が進級した所為かな、とちょっと心が痛んだりしている今日この頃ではある。

 研究資料にCD-ROMを同梱してくれてる企業というのが幾つかあるんだけど、そのなかにCMのムービーが収録されていたりすることがある。中でも山口智子なムービーを収録してくれはった日本テレコムと「東京電力のでんこちゃん」を始めて見ることができた東京電力とは、なんか嬉しいよな(笑)。電気を大切にね。
 近況。
 3/4は山崎蒸留所で行われたサントリーのエンジニア系セミナーに行ってきた(学生数:13人)。まずは蒸留所内、ウィスキーの製造行程を見学させてもらう。やっぱりというか、実際にものが創り出されている現場を見るとsence of wonderなぞくぞくとした感覚が背筋を走る。授業で学んだ気液平衡や反応係数なんかが目の前の装置で実際に行われているのだと思い至ると特にね。また麦が発酵〜蒸留〜熟成と言った過程において様々に変性し(行程において空気の匂いも、粕漬けのようなものから麦茶に似た感じ、樽の木の香りと様々に変化していった)ウィスキーとなって行く中で、人の経験と堪とで決定される部分というのが予想していたよりもはるかに多いことに驚いた。例えば最終的にウィスキーをブレンドする権限を持つブレンダーは全社で7人しかいないんだそうだ。その後実際に研究職に就かれている方に、蒸留缶の形を変えるだけで製造されるアルコールの味や風味が変わってしまうといった話を伺い、極度にアナログで職人的な世界に溜息をつくばかり。アルコールはやはり文化なのだと再認識した。その中でなおも工学的なセンスでより良い、或いはより新しいアルコールを安定して作り出して行こうとされてはる姿が実に格好良かった。酒を造っている処ということも有って山崎の立地環境も素晴らしく、かつご馳走になったウィスキー「山崎」ともあいまって、すっかりメロメロになってしまったセミナーだった(笑)。
 翌日、3/5は中津でニッショーのセミナー(学生数:100人くらい)。会場となっていた本社ビルに向かう途中、一部で噂の「ホテル関西」を見掛けてちょっと得した気分になる。確かにこれは不安になるわな。で、本題の説明会。humanity and originalityを謳い、人工腎臓をはじめとした医療器具の開発で医療現場における高いシェアと技術力をもつ姿を幾分か知ることはできたのだけど、学生数も多く、文理共通で行ったセミナーだったせいか今一つ忌憚のないと言うか、突っ込んだ話がきけなかったのが残念だった。まぁ予定されていた時間が4時間ということで、てっきり適性検査があるものと思いこんでいたら説明会だけだったので気が抜けた、ってのもあるんだけど。


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